「ゲド戦記Ⅰ 影との戦い」を読む

小説「ゲド戦記Ⅰ 影との戦い」1968年 アメリカ アーシュラ・K.ル=グウィン著 清水真砂子訳 岩波書店 ソフトカバー版 2006年4月6日第1刷発行
2013年12月31日読了

異世界を舞台に魔法使いを主人公にしたファンタジー。今となっては腐るほどあるその種の作品群の先駆的地位を占める作品。46年前の作品なので新鮮味という点では疑問はあるが、作品自体の持つパワーは、「さすが」の一言。
主人公は、ハイタカと呼ばれる少年。彼が艱難辛苦を乗り越えて優れた魔法使いになる物語、と一応は言えるだろう。幼少期に素質を見出され、やがて魔法の学院に入り、そこで親友とライバルに出会う、という展開は、明らかに後の「ハリー・ポッター」シリーズに多大の影響を与えていると言えよう。
この作品の世界設定では、名前が非常に重要な意味を持つ。万物に「真(まこと)の名」があり、それを知ることができれば、魔法使いはその名のものを操ることができる。だから逆に敵には絶対に自分の「真の名」を知られてはならない。ちなみにハイタカの「真の名」はゲドという。
物語は、ハイタカ(=ゲド)の成長譚であり、ゲドが様々な体験をする冒険譚でもある。幼少期に村に襲来した敵に霧を発生させて攪乱してやっつけたり、少年期に恐るべき竜を自らも竜に変身して退治したり、魔女の邪悪な企みを阻止したり、かなり波瀾万丈のストーリー展開である。
だが、不思議なことに読んでいるとあまり波瀾万丈で血沸き、肉躍る感じではない。所謂ハッタリズムの欠如というか、いかようにでも盛り上げられるのに敢えてそうしていない。むしろ、ゲドが成長していくに従って物語はどんどん暗く陰鬱で内省的になっていく。そこが非常にユニーク。
若気の至りと自らの過ちでこの世に呼び出してしまった影に付きまとわれるゲドの苦悩。ただ能天気に敵を駆逐するヒーロー像とは一線を画すその姿。
やがてゲドは影から逃げるのではなく、影と正面から対峙する。そこでゲドが知った影の正体とは。
いまとなっては、影の設定も目新しいものではない。いや、そもそもこれはポオの「ウィリアム・ウィルソン」(1839年)を踏襲したものではないか。目新しくなくて当然、というか伝統に忠実というか。ともあれ、この結末以外にこの物語を締めくくることはできない。と言う気がしてくる。
全てが終わったとき、ゲドは「子どものように泣き出した。」(299ページ)とある。このときの涙は、ゲドの少年時代への決別の涙なのだろう。このシーンには本当に感動した。

主人公ゲドや魔法学院のライバル・ヒスイの皮膚を赤褐色、ゲドの親友・カラスノエンドウを黒褐色と設定し、ゲドを誑かす邪悪な魔女を白い皮膚としているところにこの作品が1968年のアメリカで発表されたことを重ね合わせる。この時代に有色人種のヒーローを生み出し、悪役を白人にしたところに著者ル=グウィンの時代感覚が如実に表れていて興味深い。
ともあれ、極めて優れていて語りつくせぬ名作である。


ゲド戦記 1 影との戦い (ソフトカバー版)
岩波書店
アーシュラ・K. ル・グウィン

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