『インハンド』 「予言の書」ふたたび

マンガ『インハンド』朱戸アオ著 講談社 プロローグ第Ⅰ巻ネメシスの杖2019年2月22日第1刷発行 プロローグ第Ⅱ巻ガニュメデスの杯、他2019年2月22日第1刷発行 第1巻2019年3月22日第1刷発行 第2巻2019年9月19日第1刷発行 第3巻2020年3月23日第1刷発行
2020年7月5日(日)読了

(注意!)ネタバレあり

『リウーを待ちながら』の朱戸アオの作品。『リウーを待ちながら』は題材的に実に先見の明があり、「予言の書」かと思ったが、その伝で行けば、この『インハンド』も「予言の書」である。

この『インハンド』という作品は、いまのところトータル5巻まで出ている。プロローグとして2巻出て、それから第1巻~第3巻が出ている。おそらく当初の構想では今ある形ではなかったのだろう。特にプロローグ第Ⅰ巻ネメシスの杖は今読むと、後の巻とは登場人物も違うし、全体的な雰囲気も違う。主役が、義手の寄生虫学者・紐倉博士であることは同じであるが。彼に「案件」を持ち込むのは、厚労省・患者安全委員会の安里玲(あさと れい)という女性。ある患者の死が伝染病であるジャーガス病ではないかと疑い、紐倉に調査を依頼したのだ。自己中心的な奇人変人で天才の紐倉に翻弄されつつも安里と紐倉は真相に辿り着く。そこで浮かび上がるのは過去の医療事故の顛末と遺された者の復讐であった。紐倉の風変わりなキャラとバディ役の安里の生真面目さがうまくかみ合ってシリアスな題材も重たくなく読める。
ところが、プロローグ第Ⅱ巻では、何故か安里がいなくなり、彼女に顔がソックリの内閣情報調査室の牧野という女性が代わりに現れる。内調の方がさまざまな案件が扱えるからこうしたのか?シリーズ化するための工夫か。さらに変人で自己中心的な紐倉に元医師の高家という男を助手に加える。ここで男二人のバディものの形ができた。それによってユーモアも加わって作品世界の雰囲気が変わった。その分、安里改め牧野の出番が少なくなり重要度も薄れた。

プロローグ第Ⅱ巻の第1話ディオニュソスの冠は、TARSコロナウィルスの話。この作品の初出は2016年発行の雑誌だが、4年も前にコロナウィルスを題材にしていたとはなんという先見の明、これこそ「予言の書」だ。もっとも、ここで扱われているのは2020年の世界で猛威を振るっている新型コロナウィルスとは別のコロナウィルスである。ではあるけれど、コロナという単語に敏感になっている今読むとやはり衝撃的である。しかも内容が、コロナウィルスのスーパースプレッダーである男が無症状で何の自覚もないまま普通に行動して感染を広げていくというものなので、今話題になっている無症状の新型コロナウィルスの感染者とどうしても比較してしまう。

それ以降の話も決して感染症関連ばかりではなく、色々バラエティに富んでいて工夫して飽きさせないようにしている。
第2話ガニュメデスの杯は、血液の輸血によって若返りを図る女の話、第3話モイラの島はある種、呪われた血族の遺伝子の話。
第1巻ペルセポネの痘(あばた)は、根絶されたはずの天然痘によるバイオテロと意外な犯人の動機の話。第1巻~第2巻のキマイラの血は、マラソン選手のドーピングの話。第2巻~第3巻のフローラの軛(くびき)は、大学の研究室の放火の裏に隠れた真実の話。
どれも面白く読んだ。紐倉と高倉のコンビネーションも作品ごとによりよくなっていく感じ。変人紐倉がそれなりに普通の人に近くなっていくというか。それにしてもまだ、紐倉が義手になった過去の話とかは描かれていない。単行本3巻まででは。
あと、『リウーを待ちながら』に登場した横走市の潤月(うづき)ちゃんインハンド(3) (イブニングKC) [ 朱戸 アオ ] - 楽天ブックス
インハンド(3) (イブニングKC) [ 朱戸 アオ ] - 楽天ブックスがこちらにも出て来るのはうれしい趣向。

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