『リウーを待ちながら 全3巻』 「予言の書」

マンガ『リウーを待ちながら 全3巻』朱戸アオ著 講談社 第1巻2017年6月23日第1刷発行 第2巻2017年10月23日第1刷発行 第3巻2018年3月23日第1刷発行
2020年7月2日(木)読了

(注意!)ネタバレあり

富士山の麓にある地方都市・横走市で起きた感染症はペストだった。感染の広がりを抑えるために封鎖される横走市。患者は増え続け、次々に死んでいく。そんな事態に直面した女性医師・玉木涼穂は懸命に患者の救命にあたるのだが、思いもよらぬ事態の進行に追い詰められていく。

この作品では、ペストはどうやら自衛隊員が海外で感染して日本に持ち込んでしまったということになっている。自衛隊として海外での活動で感染するのは不可抗力と言うべきか。別に自衛隊を悪者にしているわけではない。そう、この作品では自衛隊をはじめとして政治家、官僚などを悪者にはしていない。ていうか、政治家はちゃんとしたキャラとしては出てこない。誰かの無知無能のせいでこんな悲劇的な事態になったという形の煽りは見られない。自衛隊や現場の医師たちは命がけで事に当たっているのだが、それでもどんどん最悪の方に進んでいってしまう。
主人公・玉木、そしてバディになる疫研の原神の二人を中心に話は展開する。その合間に横走市の住民のエピソードもいくつか語られる。いわゆるパンデミック的状況なのではあるけれど、それを大々的に描きはしない。如何様にも派手に激しく描ける題材ではあるけれど、抑制が効いている。
妻をペストで亡くした男が妻の幽霊と出会うとか、感染した母と幼い息子が同じベッドで息を引き取るとか、しんみりするようないい話である。
パンデミックが導き出す人間の醜さみたいなところはさほど描かれていない。その辺が、著者・朱戸アオの節度なのだろう。そこが非常に好印象だ。

タイトルのリウーは、アルベール・カミュの小説『ペスト』の主人公である医師の名前だという。それに加えて、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』にも掛けているのだろう。待ち続けているのにやってこないゴドー、永遠の遅刻者。

このマンガは、2017年から2018年にかけて雑誌連載され単行本化したもの。僅か2年前の作品であり、当然ながら作品そのものは変わってはいないが、世界が日本が変わってしまった。おそらく2年前に読むのと、新型コロナウィルス禍の2020年の今読むのでは全く意味が違う。我々が今置かれている状況がこの作品のリアリティーを倍加させている。それまでは作り物として楽しんでいたものが、現実として目の前に突きつけられる感じ。もっとも、ここで描かれるペストに比べコロナは致死率も低いし、ここまでとんでもないことにはなりそうにはないが、だからこそ怖い。ゆっくりとじわじわ最悪へ進んでいる感じが。
この作品のなかで「濃厚接触者」と言う言葉が出て来る。おそらく2年前は、専門用語だったのだろうが、今や国民の誰でも知っているありふれた言葉になってしまっている。それも怖い。

傑作であり、まさに今読むべきマンガである。リウーを待ちながら(1) (イブニングKC) [ 朱戸 アオ ] - 楽天ブックス
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