『回想の織田信長 フロイス「日本史」より』 神になろうとした男

歴史『回想の織田信長 フロイス「日本史」より』ルイス・フロイス著 松田毅一/川崎桃太編訳 中公文庫 2020年3月25日初版発行
2020年7月1日(水)読了

これは、16世紀の宣教師ルイス・フロイスが書いた膨大なる「日本史」の中から織田信長に関する文章を抜粋したものを集めて一冊の本にしたものである。フロイスはポルトガル人で布教のために1563年に来日する。そして1569年に初めて信長に謁見する。それから信長が本能寺で死ぬ1582年まで18回対面している。信長と同時代に生き、実際に会って話をしている人物が書いた本なので面白くないわけがない。非常に興味深く読んだ。この本をネタ元に後年の信長像が造られていったと思えるが、ぼくが抱く信長のイメージ通りのところと、ちょっと意外な一面を感じさせるところと入り混じっていて実に面白かった。ただ、これはあくまでも西洋人フロイスが見た信長であり、他の人間から見ればまた別の顔があったかもしれない。
ともあれ貴重な記録であることは間違いない。

信長とフロイスの初対面は、二条御所を建設する工事現場であった。そこでは6、7千人以上の人が働いていた。信長はそこで陣頭指揮を執っていた。そういう場所に異人の宣教師を招くところに信長という男のユニークさがある。強烈な自己顕示欲は勿論あるのだが、慣習や儀礼などということに全くこだわりがないともいえる。
その工事現場には、労働者だけでなく見物衆も大勢いた。そのような人々の前で信長がフロイスにキリスト教に関する様々な質問をしてフロイスが答えていったのだが、やがて信長は見物のなかに仏僧を見つけると激昂して曰く
「あそこにいる欺瞞者どもは、汝ら伴天連のごとき者ではない。彼らは民衆を欺き、己を偽り、虚言を好み、傲慢で僭越のほどはなはだしいものがある。」(69ページ)
これ以降も折に触れ信長の仏僧への罵詈雑言が記されている。一方、フロイスたちキリシタンに対しては温情を持って接し、非常に擁護する立場をとっている。かと言って信長にはキリシタンになる気持ちはかけらもないようだ。どうやら神を崇拝するよりも自らが神になりたい男なのである。
「彼(信長)は善き理性と明晰な判断力を有し、神および仏のいっさいの礼拝、尊崇、ならびに異教的占トや迷信的慣習の軽蔑者であった。」(30ページ)

ある司祭が、信長に非常に精巧な小さい目覚時計を献上しようとしたが、信長は、
「予は非常に喜んで受け取りたいが、受け取っても予の手もとでは動かし続けることはむつかしく、駄目になってしまうだろうから、頂戴しないのだ。」(77ページ)
と断った。好奇心旺盛だが、すぐ飛びついてすぐ飽きてしまうタイプなのが信長じゃないかと思っていたが、非常に慎重で先を読めるタイプであってコントロールできないものには敢えて手を出さないというのは意外。
でも、目覚時計を受け取ってもらいたかった。朝、目覚時計のベルの音で起きる信長の姿を想像すると萌える。

信長に城に招待されたフロイスともう一人の宣教師は思わぬ歓待を受ける。晩餐の際、フロイスの食膳を持ってきたのはなんと信長その人だった。そして、彼の次男で11歳の信雄がもう一人の宣教師に食膳を持ってきた。城には配膳するものなどたくさんいるだろうに城主自ら運ぶというこれこそ「おもてなし」の極意。どう見ても信長がやりそうもないことだから意外だし印象的。
また一方でフロイスは信長のことを極めて短気だと繰り返し書いている。この辺はイメージ通り。

クライマックスは勿論、本能寺の変だが、その一か月ほど前に一つの彗星が空に現れ、数日にわたって運行し、空からなんらかの物体が安土に落下したという出来事が記されている。これが凶事の予兆だったのか。
そして、本能寺の変をキリシタンの目から捉えている。これは単に信長個人の悲劇に留まらない。今までキリシタンを手厚く擁護してくれていた信長が死ぬということは状況がガラッと変わることだ。代わりに支配者となった明智光秀なる男がキリシタンを擁護するどころか皆殺しにする男だったら?確かなことは何もわからない。安土にあった修道院と神学校の人々はこの地を脱出することを決めて船に乗るのだが・・・。
それ以降の顛末はまるで冒険小説のようだ。本能寺の変とその後の大混乱をキリシタンから見るとこういう風になるというのが非常に面白い。今まで戦乱には無縁だったのに突然当事者になってしまう怖さ。結局、新築の修道院と神学校はあらゆるものが略奪されて終わった。
信長が長年にわたって蓄え築いてきたものは全て消え去った。

「現世のみならず、天においても自らを支配する者はいないと考えていた信長も、ついには以上のように無残で哀れな末路を遂げたのではあるが、彼がきわめて稀に見る優秀な人物であり、非凡の著名な司令官として、大いなる賢明さをもって天下を統一した者であったことは否定し得ない。」(265ページ)
フロイスなりの信長への最高の回想の織田信長 フロイス「日本史」より (中公文庫 フ16-1) [ ルイス・フロイス ] - 楽天ブックス
回想の織田信長 フロイス「日本史」より (中公文庫 フ16-1) [ ルイス・フロイス ] - 楽天ブックス賛辞であろう。

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