『氷三部作1 ブロの道』 肉機械どもに告ぐ

小説『氷三部作1 ブロの道』2004年 ロシア ウラジーミル・ソローキン著 松下隆志訳 河出書房新社
2015年9月30日初版発行
2020年5月5日(火)読了

(注意!)ネタバレあり。

初読。というより、そもそもウラジーミル・ソローキンというロシアの作家の作品を読むこと自体、これが初めて。近年、評判は聞いていたが、読む機会がなくというか、読む気がなかったが、書店でこの氷三部作を発見したので「えい、や!」と思い切って買ってしまった。例によってどんな内容か全く知らないで。帯に書いてある文章も読まなかった。それが良かったみたい。先入観全くなしで非常に面白く読んだ。

1908年6月30日にロシアのサンクトペテルブルグ近郊の町で生まれた「私」の物語。ロシア革命前からのロシア⇒ソヴィエト連邦になる波乱と激動の流れに巻き込まれた「私」とその家族の人生が「私」の一人称で語られる。この調子でずっと続いていくのかしら、これは純文学なの?とそれさえ知らずに読み進めると、何故か突然ツングース隕石の話になる。実は「私」が生まれた日こそ、かの有名なツングース隕石がシベリアに落下した日なのだ。その不思議な縁もあって大学生の「私」は隕石探検隊の一員として現場に赴くことになる。そこで「私」が目にしたものとは・・・。
87ページの「氷」という章あたりから、この小説はがらりと姿を変える。それまではちょっと変わった主人公「私」の視点から見たロシア現代史のオハナシかと思ったが、ここからは「私」は人間ならざる存在「ブロ」として覚醒する。彼をそうしたのは、氷の塊。実はそれこそがツングース隕石の正体。ブロは、自らの使命に目覚める。彼には23000人の仲間=兄弟姉妹がいてそのすべてはこの地球上に人間として普通に暮らしている、今は。ブロは、その23000人を探し出して見つけ覚醒させなければいけない。そして、地球を破滅させなければいけない。ブロの旅が始まった。

純文学が一転SFになった感じ。しかも結構王道のストーリーみたい。秘めたる能力を持ち、普通の人間とは明らかに違う者が仲間を求めて旅するというのは、如何にもマンガ、アニメ、小説にありそうだ。この作品の良いところはその王道をきちんと踏まえて話が進むこと。ここから先はブロがいかにして仲間を探し出していくか、いかに目覚めさせていき仲間を増やしていくか、の話に終始する。彼らは、その存在を知られぬまま行動するので敵対者や迫害者は出てこない。それでも面白く読ませてしまうのだから大したものである。
仲間を見つける能力は、ブロと女性であるフェルの二人にしかない。しかも二人一緒でなくては能力も発揮できない。二人が仲間を見つけたら、例の氷で作ったハンマーで相手の胸を強打する。そうすると、相手は覚醒し、「真の名前」を名乗るという仕組み。
仲間は全て金髪碧眼の持ち主というのも面白い。一歩間違えばヤバい設定だけど、映画『光る眼』の少年少女たちだって金髪碧眼だったし、まあ気にすることもないか。あの映画の少年少女たちと同様、こちらの仲間たちもテレパシーで心が通じるようだし、案外あの映画の影響もあるかも。

ブロの仲間探しと第2次世界大戦の動乱がシンクロしていくのも面白い。もはや人間ではないブロの目から見た人間ども(ブロは彼らを肉機械と呼ぶ)や彼らの国家が非常にブロの道 氷三部作1 [ ウラジーミル・ソローキン ] - 楽天ブックス
ブロの道 氷三部作1 [ ウラジーミル・ソローキン ] - 楽天ブックス特殊に捉えられれているのも読みどころ。
ブロと23000人の仲間とはなにものか。93ページ以降の記述によれば、彼らは光だった。彼らは23000の光線から成っていた。彼らはこの天体の創造主であり、当然地球も彼らが創造した。だが、彼らは過ちを犯した。彼らは地球に捉われ、光線ではなくなり生物へと姿を変えた。そして、地球の虜になった。だが、ついに氷が23000人を目覚めさせる日がやってこようとしている。
何という壮大なスケール。これ、いまだに映画になってないのがフシギなくらい。

第2巻も読もう。

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