『殺人の追憶』 いなかのじけん

映画(DVD)『殺人の追憶』2003年 韓国 監督・脚本:ポン・ジュノ 出演:ソン・ガンホ キム・サンギョン キム・レハ パク・ヘイル 上映時間131分 日本語字幕スーパー版 字幕翻訳:根本理恵
2020年5月2日(土)鑑賞

(注意!)ネタバレあり

1980年代後半に韓国で実際に遭った連続殺人事件をモデルにして作られた映画。件の事件はずっと犯人が分からないままで未解決だったが、去年DNA鑑定で犯人が分かったということが発表されて話題になった。
 
映画も1986年から始まる。まだ軍事政権下の韓国、頻繁にデモが行われ、また一方で北朝鮮の空襲に備えての灯火管制や避難訓練も頻繁にやられている。そんな中、ソウル近郊の村で若い女性を狙った連続強姦殺人事件が発生、地元警察の刑事たちの捜査が開始される。
よくある刑事捜査もののストーリーなのだが、どこか空気が違う。冒頭、晴れ渡った日差しのもと、農道の溝ででソン・ガンホ演じる地元刑事が死体を確かめるくだりから何か普通ではない感じがする。綺麗な映像で描かれる陰惨な殺人というミスマッチ感、に加えてどこかクールな「距離を置いた」視線がある。こういう題材だと如何様にも派手に盛り上げられるはずなのに実に淡々としている。田舎の農村で昔起きた出来事を静かに再現している感じ。
殺人の話なのにサスペンスを盛り上げようとしていない。そんなとても不思議な映画という気がする。
ソン・ガンホの刑事、および同僚刑事は拷問も辞さずの荒っぽいやり方で容疑者に自白を強要する。その無茶苦茶さが面白い。いや、本当は面白がってはいけないのだろうが、この世界の中ではしっくりくる。別に警察の非人道性を告発する社会派映画というわけではない。あるがままに描いている感じ。ソウルから来た真っ当な捜査をするキム・サンギョン刑事のやり方と対比して見せる狙いもあったのか。

無能な刑事たちの先を行き、上を行く犯人は次々に犯行を重ね、刑事たちは手も足も出ない。試行錯誤の末に何人かの容疑者も上がるがいずれも決め手がない。しまいには、強姦殺人の現場に犯人の陰毛が遺留品として残っていないことから、「犯人は無毛症」という推論に到達、銭湯で犯人探しをするというギャグシーンまである。そういうのはソン・ガンホが一挙引き受けという感じ。霊能者に占ってもらうくだりも可笑しい。刑事映画のパロディみたい。ただ、笑える部分もあるけれど、知的障害がある容疑者が事故で死ぬとか悲惨な出来事も描かれているし、殺されるのを免れた被害女性のくだりも悲痛。

最初は冷静に事件捜査に当たっていたキム・サンギョン刑事も知り合いの女子高生が殺された辺りから暴走し始め、容疑者に対して暴力的に迫るようになる。ソン・ガンホたちに感化されたのか、犯人への強い憤りが極限に達したのか。この辺はヴォルテージが高まって盛り上がる。
だが、その直後、有力容疑者のDNA鑑定の結果が判明し、その男はシロとなる。つまり、モデルにした事件の顛末と正反対なのである。勿論、この映画が公開された時点で実在の事件は未解決だったので実に皮肉なことである。

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殺人の追憶【Blu-ray】 [ ソン・ガンホ ] - 楽天ブックスラストは十数年後の2003年。刑事を辞めて普通のビジネスマンになったソン・ガンホが、久しぶりに事件現場の農道にやってきて溝をのぞき込んでいると、一人の少女がやって来る。少女が言うには、前にも同じようにここに来た人がいて「昔ここでやったことを忘れないようにしている」と語ったという。ここでタイトルの「殺人の追憶」というのが生きる。
その男がやはり犯人なのだろう。だが、捕まりもせず、罪も償うこともなく、生きながらえて、人生のエピソードの一つとして自分が殺した女たちのことを追憶しているだけなのだろうか。空恐ろしいような、どこかあっけらかんとしているような見事なラストだ

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