『アメリカ怪談集』 悪魔に首を賭けろ

アンソロジー(怪奇小説)『アメリカ怪談集』荒俣宏編 河出文庫 1989年5月2日初版発行 2019年10月20日新装版初版発行
2020年3月21日(土)読了

(注意!)ネタバレあり

アメリカの怪奇小説13編収録。19世紀半ばから20世紀半ばまでの作品。

「牧師の黒いヴェール」ナサニエル・ホーソーン
ある日突然、フーパーという牧師が額に黒いヴェールを縛り付け、顔を隠して見えないようにして人々の前に現れた。何故そんなことを始めたのか周囲の人間は戸惑うが、牧師は一切理由を語らず、牧師としての仕事は今まで通りに続けていくのだった。
フーパー牧師は一人でいるときも他人といるときもヴェールを外そうとはしなかった。彼はある女性に結婚の申し込みをしたが、その女性にもヴェールを上げて顔を見せようとしなかった。当然ながら女性には結婚を拒絶された。
やがて時は過ぎ去り、フーパーは老いて臨終のときを迎えることとなった。だが、その際にも周囲の説得にもかかわらず、彼は頑なにヴェールを外すことを拒否した。従って彼の遺体は黒いヴェールを顔に着けたまま埋葬された。
結局、何故彼がヴェールで顔を隠すようになりそれを一生涯続けたのか、ハッキリとした真相は分からないまま。そこが非常に面白い。
まるで何か罪を犯したかのように顔を隠す、逃亡犯でもないのに。でも社会から隔絶して引きこもりの生活をするわけでもない。牧師としてはちゃんと仕事をして地位も上がっている。あえて顔を隠すのは肉体的、精神的理由があったのか。分からない。

「古衣装のロマンス」ヘンリー・ジェームズ
一人の男に二人の姉妹が恋をした。男が結婚したのは妹の方だった。
やがて妹は病で死に古い衣装を収めた長持を遺した。
やがて男は、姉の方と再婚した。姉は妹の遺した長持を開けてみることにした。
そこにあったのは

ヘンリー・ジェームズの怪奇小説というと『ねじの回転』が何といっても有名だ。おっと、怪奇小説と言うと語弊があるか。あの作品において本当に幽霊が出たかどうか確たるものは何もない。全然怪奇でも幽霊でもなく、単に情緒不安定の女性家庭教師の妄想だったのだという見方もできる。ていうか、今はそっちの方が優勢か。ぼくは幽霊派ではあるけれど。
で、この短編の方はちゃんと幽霊が現れたという観点から描かれている。しかもこの幽霊、ハッキリとした物理的攻撃を仕掛けるのだ。
ラストで、

「そして彼女のまっ白いひたいや頬には、復讐に燃える怨霊の二本の手でできた十か所の恐ろしい傷跡が赤く光っていた」

となっている。この鮮やかな幕切れ!
一人の男をめぐる姉妹の確執から残酷な結末まで見事な展開。ラフカディオ・ハーンの「破約」を思い出す。

「忌まれた家」H・P・ラヴクラフト
百年以上にわたって住んだ人があまりにもたくさん早死にする曰く付きの屋敷。謂わば「事故物件」のこの屋敷の謎を探るために赴いた二人の男は屋敷の地下室で想像だにしなかったものに遭遇する。
怨霊が憑りついた幽霊屋敷を描くゴーストストーリーかと思いきや、ゴーストならぬモンスターが出て来る話であった。地下室を掘ってみたら霊とかいう目に見えないものではなく、ちゃんと目に見える現実的な形をした物体でどうやらそれが代々の人間の精気を吸い取っていたいたようなのだ。退治法ももちろん悪魔祓いとかじゃなくて硫酸を大量にぶっかけるという現実的なもの。宗教も悪魔も関係ない。何しろこの屋敷にやってきた二人の男は、民間人なのにもかかわらず最初から軍用火炎放射器を二台持参しているのだから最初から殺す気まんまん。
いちばん気に入ったシーンは、二人のうちの老人の方が奇怪な物体と化すシーン。老人の顔を過去にこの家で死んだたくさんの人間の顔を次から次へと再現して変形していくのだ。まるでCGで作ってくださいと言わんばかりだが、これが何と1924年に書かれているというのだから凄い。さすが、ラヴクラフト。

「悪魔に首を賭けるな」エドガー・アラン・ポオ
ずいぶん昔に観た映画『世にも怪奇な物語』はポオ原作の3作品を3人の監督がそれぞれ映像化したオムニバス映画だったが、その中で一番評価が高く面白かったのは、フェデリコ・フェリーニ監督が作った1編。その原作がこれ。読んでみると、フェリーニはかなり大胆に原作をアレンジしていることが分かる。共通しているのは首チョンパくらいのもの。
ポオの原作は彼のダークなユーモアが炸裂していて今読んでも面白い。ラストの一行なんか酷すぎてむしろ愉快。アメリカ怪談集 (河出文庫 河出文庫) [ 荒俣 宏 ] - 楽天ブックス
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