『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』 救世主(メシア)から巫女(シャーマン)へ

評論『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』MIYAZAKIWORLD A LIFE IN ART 2018年 アメリカ スーザン・ネイピア著 仲達志訳 早川書房 2019年11月15日初版発行
2020年1月12日(日)読了

アメリカの大学教授による宮崎駿論である。『未来少年コナン』から『風立ちぬ』まで宮崎駿監督作品を発表順に取り上げて1作ずつ吟味していく。単に作品論にとどまらず、宮崎駿の評伝的な意味合いもある。宮崎駿の公私にわたる経験がいかに作品に反映されているのか考察していて、非常に興味深い。

著者が、生まれて初めて見たアニメ映画は『AKIRA』(1988年)で二本目は『風の谷のナウシカ』(1984年)だという。著者は1955年生まれだから、30代になるまでアニメ映画を見なかったということになる。17歳で日本に留学経験があり、博士号を三島由紀と大江健三郎研究で取得しているそうだからかなり以前から日本に関心を抱いていたのは確かだが、アニメはその関心外だったのか。逆に言えば、そんなアメリカのインテリに関心を持たせた大友克洋と宮崎駿は凄いということになるか。もっと凄いのは、30代からアニメ映画を見始めて、現在ではアニメの講座を大学で担当し、さらにはこのような著書を出版するスーザン・ネイピアの方か。

それにしてもアメリカ人がよくぞここまで宮崎駿作品を見て、さらに日本語の文献を読み込んでこれだけの本を書き上げたものである。非常に読みごたえがある。
いささか宮崎駿を高く評価しすぎなのではないかと思えるほどに褒めているのが逆に新鮮。どんな作品にも美点を見出し、その素晴らしさを語っていく。同時にその素晴らしい作品の裏の宮崎駿の葛藤まで類推していく。
まさにサブタイトルの「宮崎駿の闇と光」というのがピッタリである。著者にかかると、単なる面白いアニメを作る映画監督という範疇を超え、苦悩する芸術家に見えて来る。そこが読んでいて気持ちいい。
もっとも、他の人の批判的な意見を引用するという形でキチンとバランスをとっている。

それにしても、アニメに限らず映像作品のを文章で批評するって難しい。
著者は各作品のストーリーのディテールをネタバレも厭わず事細かに書いていくのだが、見てない人にはピンと来ないし、見ている人には何をいまさら感がある。ただ、具体的に書いていかないと抽象的すぎて漠然としてしまうからなあ。

面白いのは日本人の評論ではまず出てこないフレーズが出てくること。『天空の城ラピュタ』のラストを見て『新古今和歌集』の藤原定家の一首を思い出す人なんて著者くらいだろう。
「マゾヒストに近い完璧主義」と宮崎駿を評しているのも面白い。完璧主義はサディストではないのか。
ポニョを「半魚人の幼い少女」とハッキリ書いてもいる。そういえば、あれは半魚人だったか。
『となりのトトロ』の都市伝説みたいな解釈(サツキとメイはすでに死んでいる)についても著者ならではの見解を述べている。
漫画版『風の谷のナウシカ』に対する熱のこもった批評も読みごたえがある。
『紅の豚』は、アメリカ映画『カサブランカ』(1942年)をファンタジーとしてリメイクした作品、『崖の上のポニョ』は『アフリカの女王』(1951年)の1シーンに似たシーンがある、という指摘も面白い。

この本を読んで大いに刺激されたので宮崎駿作品をすべて見返してみたくなった。ミヤザキワールド─宮崎駿の闇と光─ [ スーザン・ネイピア ] - 楽天ブックス
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