『月は無慈悲な夜の女王』 

SF『月は無慈悲な夜の女王』THE MOON IS A HARSH MISTRESS 1966年 アメリカ ロバート・A・ハインライン著 矢野徹訳 ハヤカワ文庫 2015年11月15日5刷
2019年10月13日(日)読了

(注意!)ネタバレあり

地球の世界連邦の支配下にある月世界植民地は、長年にわたる世界連邦の圧政に反旗を翻し、自主独立を目指し、革命の狼煙を挙げた。革命を率いるのはベルナルド・デ・ラ・パス教授、計算機技術者マヌエル・オケリー、そして計算機マイク(マイクロフト・ホームズが名前の由来)だった。これは軍人でも政治家でもない彼らがいかにして革命を成就したかの記録である。

文庫本にして680ページの大長編。しかもオハナシが起伏に富んでアクション満載というわけではないので正直、途中でいささか退屈する。だが、我慢して読み進めていけば、ラストでは結構満足してしまう。
何故、途中で退屈するかというと、肝心の革命がなかなか始まらないからだ、革命の計画、準備、人集め等々に尺が費やされ、実際に革命が始まるのは330ページ過ぎ、つまり全体の半分が経過したあたりなのである。
フレドリック・フォーサイスの『戦争の犬たち』はクーデターを題材にした作品だったが、クーデターの計画、準備(武器の調達、人集め)などにページが費やされ、クーデターが起こるのはクライマックスからラストにかけてだった。あれを思い出した。
それでも、フォーサイスよりもハインラインの方が特に後半は派手な見せ場を繰り広げて飽きさせない工夫をしている。

『宇宙の戦士』などで右派のイメージがあるハインラインが革命ストーリーというのはちょっと意外な気もするが、ハインラインとしては右派とか左派とか関係なく、自らの信念のもとに自由と正義のために戦う人間を描きたかったのだろう。相手が異星人であろうと、世界連邦の人間であろうと戦わねばならない時は戦うということ。

月世界は実は地球の流刑地であり、そこの住民は支配階級を除けば地球から来た犯罪者とその子孫のみ。犯罪者と言っても殺人犯もいれば、パス教授のように政治犯もいるが、地球人から見れば同じことで、一段低く見て差別されている。それに対して月世界人も地球人を「地球虫」と呼んで侮蔑している。全く相いれない関係である。

革命の火ぶたが切られるのは予定と違い、突発的な事件からだった。月世界生まれの若い女性が6人の兵隊に強姦され殺されたことに端を発し、民衆の怒りが頂点に達した。月世界を支配していた政府と軍隊は一気に潰滅させられた。
支配者たちが建物に立て籠っても無駄だった。何しろ月世界だ、酸素の供給を断つだけで彼らは全て酸素欠乏で倒れてしまう。
それを可能にしたのが、自我に目覚めた計算機マイクだった。月世界の支配者は人間ではなく、すべてのシステムを牛耳る計算機で、マイクが革命側についたことで革命は成功した。
矢野徹の訳語は、計算機であって、コンピュータではない。ひところ使われた電子計算機ですらない、計算機。だが、この古風さが逆にいい。
心を開いた計算機マイクと計算機技術者マヌエル(マニー)のやり取りがとにかく面白い。

革命が始まってからの300ページ余は、強硬策に出て月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫) [ ロバート・A.ハインライン ] - 楽天ブックス
月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫) [ ロバート・A.ハインライン ] - 楽天ブックス月世界都市を急襲する世界連邦軍と月世界の人々との攻防があり、さらに月世界から地球に向かっての威嚇攻撃ありの展開になる。威嚇と言っても残念ながら死者が出て、事態は悪化、どちらも一歩も引かず、さてどうなる?

ラスト近く665ページで世界連邦のうち「大中国」が、世界連邦のやり方を非難して月世界革命側を承認、交渉すると求めてきた。他の国も次々それに倣った。これは結構意外だった。まさか究極の助け舟が中国だとは。この小説が発表されたのは1966年でまだ中国が得体の知れない国と見なされていた時代じゃないだろうか。そのころにこれだけ中国の存在に注目していたハインラインの先見の明、さすがである。逆に言うと、アメリカ形無し。

338ページの教授の言葉
「わしも同様に暴力を使うのは残念に思うがね、敵を相手にする場合、取るべき方法は二つだけだよ。殺すか、友人にしてしまうかなんだ。その中間にある方法はいずれも未来に禍根を残すことになる。」

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