『アス』 われわれはアメリカ人だ

映画『アス』Us 2019年 アメリカ映画 ユニバーサル映画提供 配給:東宝東和 監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール 出演:ルピタ・ニョンゴ ウィンストン・デューク シャハティ・ライト・ジョセフ エヴァン・アレックス 上映時間1時間56分 カラー スコープサイズ ドルビーデジタル 日本語字幕スーパー版 字幕翻訳:種市譲二
2019年9月6日(金)日本公開
2019年9月7日(土)鑑賞 TOHOシネマズ上野 スクリーン4 9時15分の回 座席A-6 入場料1200円(シニア割引) パンフレット800円

(注意!)ネタバレあり

前作『ゲット・アウト』(2017年)が興行的に大ヒットして、作品としても高評価(アカデミー賞脚本賞受賞)を得たジョーダン・ピール監督の最新作。『ゲット・アウト』はぼくも観て非常に面白かったので、この作品にも大いに期待してシネコンに観に行った。

1986年夏、黒人の少女アデレードはカリフォルニア州サンタクルースのビーチにある遊園地の鏡の迷路で恐ろしい体験をする。
というのがプロローグで、その後は現代に話が移る。少女は中年になり、夫と二人の子ども(姉と弟)という家族を持つ。
夫ゲイブの提案で夏休みに四人でサンタクルーズのビーチに行くことになる。あの忌まわしい場所に再び・・・。
ビーチで不安な思いに駆られるアデレードだったが、そこでは何も起きなかった。
だが、その夜、四人家族の家に四人にそっくりな「われわれ」がやってきた。

ここまでは不穏な空気の醸成が非常に上手い。ビーチでどんどん募っていくアデレードの不安がみっちり描かれているので、その後の夜の訪問者の怖さが際立って来る。家の外の闇に四人の人間が手をつなぎ合って立っている構図は特にゾッとするほどの美しい怖さ。
続いて謎の四人がアデレードたち四人を襲撃するくだりも優秀。武器が植木ばさみのみという身近な日用品なのもよく考えられている。そういえば、アメリカ映画なのに敵味方どちらも全く銃が出てこない。銃が出てくるとまた違った感じの映画になってしまうからだろう。植木ばさみに対抗して金属バットくらいしか武器がないのもリアル。普通の家庭に突然襲い掛かる暴力の脅威をひしひしと感じる。
ただホラー映画の殺人鬼と違って、こちらの襲撃者、特にアデレードそっくりの女はやけに饒舌。この段階で、自分たちが影(SHADOW)の存在であり、いかに虐げられて生きてきたかを涙ながらに語る。その口調が人間離れして異様なので全く同情できないが一応の説明にはなっている。というか、作品のテーマを登場人物の口から言ってしまった感あり。
お前たちは何者か?と問われた女が、
「われわれはアメリカ人だ」
と答えるくだりにそれを強く感じる。
さらに後半にもう一度、ダメ押し的にもっと具体的に影たちの正体とその行動の意味を語っている。
無言で殺戮を繰り返すスプラッター映画と違うのだ、という作者の意図を感じる。

四人対四人の攻防が面白いので、これから家とその周辺での限定された話にするのかと思っていた。夫ゲイブも「『ホーム・アローン』作戦で行くか」と言っていたから。
でも近所に住む友人家族四人が惨殺される辺りから話を広げていく。謎の集団が、サンタクルーズで大量殺戮を行っている、というニュースが流れる展開になる。
前半1時間は、非常に不穏で緊迫感にあふれていて面白かったのに、この辺りから変調していく。何だか色々詰め込みすぎて訳が分からなくなる。広げた風呂敷を上手く畳まない、というか畳みたくない感じでずいぶんとっ散らかっていく。
謎の大人数の集団も最初は殺戮したが、そのあとは何故か手をつないでずっとたたずんでいるだけ。これ、どういう意味か。街中を山腹を手をつないだ無数の人たちが無言で並んでいるって怖がればいいのか、笑ってしまえばいいのか。
夫ゲイブが、この手つなぎ集団を見て「パフォーミング・アートみたいだ」と突っ込んでいるのだが、脚本・監督のジョーダン・ピールの自虐的ジョーダンか。

では、一体突然現れた彼らはそもそも何者であるか。アデレードそっくりの女が後半で説明する。かつて人間たちが自分たちに似せて複製人間を作ったが、それが用済みになり捨てられ、彼らはアメリカ全土の地下で暮らし始め、長い年月が経った。そして、いま地上の人間に攻撃を始めたのだ。
何というか、トンデモ説明である。映画の冒頭に意味ありげにアメリカの地下に使用されず廃棄され忘れられた施設がたくさんあると字幕で出たのはここにつながるのか。それにしても複製人間で地下人間というのがあまりに荒唐無稽である。別世界とかパラレルワールドに住む人間たちとかしたらまだ納得するのに。いや、あえて納得させないためにこうしたか。これから『アス』について考えると、そのたびに地下人間のことを思い出す。普通の別世界じゃつまらない。

もう一つラストに大きなオチがあるのだが、これが残念ながらあまり効果を上げていない。

前作『ゲット・アウト』は、非常にストレートに話が進み、オチも面白いし、文明批評的な部分もあって楽しかった。その成功で調子に乗ったジョーダン・ピール監督が自分のやりたいことをぶち込んだ『アス』は無茶苦茶な映画になってしまったが、この無茶苦茶さはどうにも憎めない。愛すべき怪作。




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