『そしてミランダを殺す』

ミステリ『そしてミランダを殺す』THE KIND WORTH KILLING 2015年 アメリカ ピーター・スワンソン著 務台夏子訳 創元推理文庫
2018年2月23日初版
2019年8月14日(水)読了

(注意!)ネタバレあり

空港で出会った見知らぬ男女(男はテッド、女はリリー)は親しくなり会話していくうちに何故か殺人計画に話が及ぶ。
テッドは、妻が浮気している現場を目撃し、殺意を抱く。そして見知らぬ女リリーはテッドの殺人の手助けをすることを約束する。

ミステリの出だしとしてはなかなか上手い。テッドとリリーが一人称で章ごとに交互にストーリーを語っていく構成も興味を惹かれる。ただ、話を前に進めるというよりも、まずはふたりの過去(特にリリー)を言及していく。ここでは、リリーという女性の異常な過去を描くのに欠かせない部分。
リリーは14歳の時に大人を一人殺している。だが、彼女は死体を井戸に隠蔽し殺人そのものも発覚することはなかった。殺人の動機は、普通で考えれば殺すほどのことか、というもの。そして大学生の時に恋人エリックを殺している。動機はエリックが浮気したというもの。確かに酷いがそれでも殺すという手段に訴えるのはアンバランスすぎる。どうやら、リリーという女性、殺人のハードルが相当低いようだ。加えて特異な倫理観があり、善悪の考え方も人と違う。ちなみにこのエリック殺しはピーナツアレルギーによる不幸なアクシデントとして処理され、リリーは疑われることもなかった。
そういう過去の殺人が語られ、現在進行の殺人が起きないので些か退屈なのも確か。じりじりして読んでいると、やっと191ページ目で現在の殺人が勃発する。全部で421ページの小説なのでほぼ半分弱。この構成には疑問あり。ここで第一部終了。

第二部は、テッドとリリーが決して見知らぬ男女だったわけではなく、テッドの妻ミランダとリリーの過去の因縁が明かされる。ふたりは大学が一緒でミランダの二つ下がリリーで、リリーの恋人エリックの浮気相手がミランダだった。このミランダという女もリリーとは違う意味で恐ろしい女。浮気をするし、その浮気相手ブラッドを支配して夫のテッド殺しを企てる。
夫殺しの動機は、朝起きた時に夫の顔を見るのがつくづく嫌になったというもの。一生、この間抜け面を見続けるのは耐えられない!
リリー同様、殺人のハードルが低いのが面白い。
この第二部では、語り手はテッドに代わってミランダとリリーが交互に務める。過去話はなくなり、現在進行形の話になる。ミランダとリリー、ブラッドのとても善人と言えない三人の命を懸けた騙しあい、殺し合いが展開される。三人とも嫌なやつなので全く感情移入することなく楽しく読める。なかでも別に犯罪のプロではないリリーの頭の良さ、手際の良さが際立つ。子どものころからナンシー・ドルーものやアガサ・クリスティー、パトリシア・ハイスミスなんかを読んできたようだからそのおかげか。
第一部は異常な若い女性の殺人をむしろ淡々と描き、第二部は一転派手な殺し場ありの活劇調も加えて緩急をつけている。

第三部は、リリーと刑事キンボールが交互に語っていく。やっと捜査側の活躍が、と思っていると、このキンボールの捜査が些か逸脱していく。容疑者リリーに執着する姿は職務を超えていく感じ。やがてそれは思わぬ悲劇を生む。
キンボールを完全な正義としていないところが面白い。だが、それはリリーが付け入るスキを生む。これは、『わらの女』と同じく完全犯罪成立かと思いきや、ラストにとんでもないオチがつく。これは似たようなオチが前例にあるのだが、なかなか上手く利用している。長編の〆にこれ持ってくるか!という感動がある。

作品の出来栄えとしては、傑作にやや及ばぬ準傑作といったところか。それでもヒロインであるリリーのキャラ造形の面白さを始めとして高く評価したいところが多い。そしてミランダを殺す (創元推理文庫) [ ピーター・スワンソン ] - 楽天ブックス
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