『アメリカの壁』 アメリカにとっての素敵な孤立

アメリカの壁 (文春文庫) [ 小松 左京 ] - 楽天ブックス
アメリカの壁 (文春文庫) [ 小松 左京 ] - 楽天ブックス『アメリカの壁』小松左京著 文春文庫 2017年12月10日新装版第1刷
2019年7月11日(木)読了

(注意!)ネタバレあり

絶版になっていた文庫が、突然注目されて復刊した。アメリカのトランプ大統領が「メキシコとの国境に壁を建設するぞ」とぶち上げたために、小松左京の書いたこの作品を思い出した人々がいてTwitterなどで取り上げられたとのこと。SFファンは忘れない、凄いことだ。もっと凄いのはSF顔負けの超発想をしたトランプ大統領か。

6編収録の短編集。いちばん面白かったのはやはり表題作「アメリカの壁」。ある日突然、アメリカが白い霧の壁に覆われて、完全に外部との接触を断たれるという事態が起きる。何故そんな異常事態が起きたのか?そして、これからどうなるのか?たまたまその時にアメリカにいた日本人豊田の視点から描かれる物語は、やがて驚くべき真相が明かされていく。

その真相とは

魔の海域と呼ばれるバミューダトライアングルの海底で調査隊が発見したのは、白い霧の発生装置。それを作ったのは異星人か古代文明人かわからないが、それは恐るべき威力を持っていた。いくらでも巨大になり、電波も通じず、戦闘機なども阻む霧の壁。それによってアメリカ大統領はアメリカが外の世界と隔絶して生きていく道を選んだ。もうアメリカが他国の面倒の見るのは真っ平だ。アメリカは世界の警察でいることも盟主でいることも放棄する。アメリカはアメリカで好きにする。独立独歩で行く。食料もエネルギーも自給自足できる大国アメリカならではの選択である。究極の内向き政策である。
このとんでもない話が今読んで不思議にリアリティーを持つのは、ひとえにトランプ大統領のおかげだろう。国際協調に背を向け、自国最優先ばかりに目を向けるやり方がこのSFの中のアメリカ大統領にどうも似て見えて来る。そして、もともとアメリカにはこういう内向きな一面があったのだという気もする。
この作品は秘密を知った豊田が殺されるところで終わるが、そのあとのほうに興味が湧く。いわば完全に鎖国したアメリカがこれから先にどんな歴史を作っていくのか、そしてアメリカがいなくなった外の世界がどうなっていくのか。それを考えるのが思考実験として面白い。

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