『怪奇礼賛』 のど斬り農場にようこそ

アンソロジー(怪奇小説)『怪奇礼賛』E・F・ベンスン/A・ブラックウッド他 中野善夫・吉村満美子編訳 創元推理文庫 2004年7月30日初版
2019年5月31日(金)読了

(注意!)ネタバレあり

19世紀末から20世紀前半にかけて発表されたイギリスの怪奇小説の中から短編22編を選んで収録したアンソロジー。22編中18編が初訳とのこと。残念ながら、大傑作と呼べるような作品はないが、いろいろとバラエティーに富んだ作品ばかりで全体的なレベルは高い。かなり楽しませてもらった。
特に気に入った作品について簡単に感想を書いておく。

「塔」マーガニタ・ラスキ
イタリアにやってきたキャロラインは、16世紀に建てられた赤レンガ造りの塔を訪れる。その塔を建立した男は、黒魔術に手を染めていたと言われていて、塔にも不気味な迷信があるという。キャロラインは、意を決して塔の中の石段を昇っていくのだったが・・・。
雰囲気醸成がうまいし、次第に追い詰められていくヒロインの心理描写も臨場感があってスリリング。簡単に言えば、石段を昇って降りるだけなのにこの怖さ。

「跫音 あしおと」E・F・ベンスン
夜、家に帰る途中、男が耳にしたのは奇妙な跫音。その正体不明の跫音は長らく男に付きまとっていた。だが、ある夜、ついにその跫音の主を突き止めることに成功した。そいつの顔を見た男は悲鳴を上げ逃げ出した。やがて男は教会に辿り着き、修道僧に助けを求める。だが、その修道僧の顔は、

ビックリ。日本の怪談のうちのある話にオチがソックリ。真似したのか、偶然似たのか。非常に興味深い。

「メアリー・アンセル」マーティン・アームストロング
恋人が戦死し、彼との間にできた子も死産したメアリーは失意のままに別の男と結婚した。だが、死んだ恋人への思いは今も変わることはなかった。
一種の幽霊譚なのだが、幽霊とは関係ないところに妙味がある。メアリーの事情などまるで知る由もない行きずりの赤の他人の男が、ちょっとした勘違いから何気にメアリーに言ったひと言が、絶望の淵にいるメアリーにほのかな光を与えたのだ。そこがなんとも上手い。

「谷間の幽霊」ロード・ダンセイニ
色々な幽霊が今までにも描かれてきたが、これは飛び切りユニーク。谷間に立ち込めた霧の柱、それが自らを幽霊と名乗るのだ。万物に霊が宿るとはいうが、霧とは。

「囁く者」アルジャナン・ブラックウッド
こちらもまたユニークな幽霊。いくつかの家具などしか置いていない屋根裏部屋で執筆活動を始めた男の心に押し寄せるイメージの奔流。男の心は揺れ動く。あとでその部屋の持ち主に話を聞くと、その部屋にはかつて数百冊の本が置いてあったが、別のところに移したのだという。今そこには存在しない本の幽霊だと解釈すると非常に面白い。本のパワーの凄さよ。

「二時半ちょうどに」マージョリー・ボウエン
深夜二時半に男が復讐にやってくるのでかくまってほしい、と上の階の部屋に住む男ラヴデイがロジャーの部屋にやってきた。問題の時間、確かに上の階の部屋に入って行く足音が聞こえる。何が起きるのか。
実はこのラヴディという男はすでに死んだ幽霊だった、というオチかなと思ったがもうひとひねりしてあった。

「今日と明日のはざまで」A・M・バレイジ
邪険に扱った老婆に呪いをかけられた男トリマーは、今日と明日のはざまの時間、つまり深夜零時1分前という時刻になぜか過去にタイムスリップする。そこは18世紀で、彼は一人の少女に恋をする。現在に戻った彼は、少女との再会を望むのだが、次の日にその時刻に彼がタイムスリップした場所にいたのは少女ではなく狼だった。
『ミステリーゾーン』にあるような話。現代におけるトリマーの死体には狼にかまれた跡はおろか外傷は何もなかった。ということは過去にタイムスリップしたのではなく、すべてが呪いの力による幻想か。

「溺れた婦人」エイドリアン・アリントン
別荘探しに田舎の村にやってきた男は、ある別荘の庭にある井戸のそばで全身びしょ濡れになった若い女性が立っているのを見つける。その女性はすぐに消えてしまった。男はそれが井戸に自ら身を投げたか、誰かに投げ込まれたかした女性の幽霊だと思ったのだが、後日、ちゃんと生きているその女性に対面してしまう。
では、あれは何だったのか。もしや過去に死んだのではなく、これから先の未来に死ぬ女性の幽霊なのではないか。
未来の幽霊という発想が非常にユニークで面白い。それに井戸と若い女性の幽霊という組み合わせもいい。日本だと、『番町皿屋敷』や『リング』で井戸と若い女性の幽霊はおなじみだが、イギリスの怪奇小説でもそういうものがあるというのは実に興味深い。井戸の怖さは日本もイギリスも同じか。

「死は素敵な別れ」S・ベアリング=グールド
死んだ前妻が幽霊になって夫の前に現れ、夫が新しい女性と再婚するのを断固阻止しようとする話。この幽霊、幽霊にしては珍しくちゃんと会話して意思疎通ができる。でも性格が頑固なので夫の再婚など絶対認めようとしない。そんな夫は、結婚したい女性に事情を説明すると、「実は私も幽霊に憑りつかれているの」という。
幽霊がストーカーって最強最悪。だけどコメディタッチで怪奇小説のパロディみたいなので気楽に面白く読める。ラストのオチも上手い。

「死は共に在り」メアリ・コルモンダー
これが一番古風な如何にも怪奇小説って感じの作品。初出が1890年、19世紀末だから当然か。
地下聖堂に長年にわたって封じ込めらて来た邪悪な亡霊が、聖堂の鍵が開けられたことにより蘇り、外界に抜け出し人間を殺し始める。この亡霊は目には見えない、ただ亡霊が殺した人の首に手の跡がついていた。
見えない亡霊の見えない手の跡が残っている、というのが納得できるようなできないような。インパクトはあるけれど。

「のど斬り農場」J・D・べリスフォード
タイトルがなんとも素晴らしいと同時にこれじゃネタバレだなとも思う。予期された展開があって予期されたラストに流れ込む。どこかユーモアのセンスが感じられるのがいい。







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