『死者の中から』

小説(ミステリ)『死者の中から』1953年 フランス ボアロー/ナルスジャック著 日影丈吉訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1977年6月15日発行
2019年1月31日(木)読了

(注意!)ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『めまい』の原作小説。初めて読む。
映画の方は、随分昔、リバイバル公開の時に映画館で観たが、何せ昔のことなので細かいところは忘れてしまった。だから詳細に比較することはできない。取りあえず、一つの小説として読んだ感想を書いてみよう。

時代は、第二次世界大戦、ドイツ軍がフランス本土に迫りつつあった頃、元刑事で現在は弁護士のフラヴィエールは、15年ぶりに再会した友人ジェヴィーニュから彼の妻マドレーヌを尾行して行動を監視するように頼まれる。マドレーヌには自殺した曾祖母がいて、どうやら自分はその生まれ変わりだと信じていて言動がおかしく、自殺する気配があるというのだ。
尾行を開始したフラヴィエールだったが、彼の目の前でマドレーヌは突然、川に飛び込むという行動に出る。慌ててフラヴィエールも飛び込み、無事にマドレーヌを助ける。それから本当の身分を明かさぬまま、フラヴィエールとマドレーヌは付き合い始める。次第に恋に落ちていくフラヴィエール。
だが、二人の束の間の関係は、マドレーヌが立ち寄った教会の鐘楼から飛び降りて死んだことで終わりを告げる。フラヴィエールは高所恐怖症と刑事時代のトラウマ(同僚刑事が犯人追跡の際に屋根から墜落)のため、高い鐘楼に登れず、マドレーヌを助けられなかった。
失意のフラヴィエールは、パリを去る。
ここまでが第一部。

15年もあっていなかった旧友に妻を尾行してくれと頼まれるっていうのが怪しさ満載なのだが、主人公フラヴィエールは気付かない。何しろ尾行相手に恋してしまったのだから。
元刑事で現在弁護士という職歴とも思えない、他人のことを疑わない、惚れっぽい主人公のキャラが危うくてとてもいい。相手に対する執着心が窺えて、ストーカー一歩手前という感じ。カッコいい主人公では全然ないし、自分でも気付いていない。ただ思いこんだら一途なのである。

第二部は4年後。戦争は終わった。心の痛手を抱えたままのフラヴィエールは、ふと入った映画館でマルセーユで撮影されたニュース映画を観た時にその画面にあのマドレーヌそっくりの女性を見つける。早速、マルセーユへ赴いたフラヴィエールは、そこでその女性に出会う。だが、彼女は、ルネ・スーランジュと名乗った。

偶然見たニュース映画に偶然あの女性が写っていたというのも御都合主義だが、マルセーユへ行ってすぐその女性を見つけることができるというのも御都合主義。どんだけ狭いんだ、マルセーユ。だが、それこそが恋の奇跡というのものだ。そこを気にしていたらこの小説は読めない。
第二部は、疑心暗鬼のまま、恋の執念を燃やして次第に常軌を逸していくフラヴィエールの姿が読みどころ。他の登場人物が出て来ることもなく、何か新たなストーリー展開があるわけでもなく、フラヴィエールとルネとのやり取りが続くだけ。ルネをマドレーヌと信じて付きまとっていくフラヴィエールとそれを完全に拒絶できないルネの関係性が実にスリリング。

そして、クライマックスでルネの口から明かされる全ての真相。マドレーヌとは誰だったのか。彼女はなぜ死んだのか。彼女の夫であるジェヴィーニュの思惑とはなんだったのか。ルネは何者か。
そこには、フラヴィエールが思いもしなかった周到に練られた殺人の計画が潜んでいたのだ。だが、殺人は成功したのだが、犯人の予想を越えたフラヴィエールのある行動が全てを壊し、結果的に犯人は死んだ。
フラヴィエールを心理的に上手く操れると高をくくっていた犯人が落ちた意外な落とし穴。
ミステリとしては、そこが面白かった。
そして、ラスト。主人公が出した結論がまさかこういうこととは思ってもみなかった。映画では改変されている。大スターであるジェームズ・スチュワートにこんな幕切れを演じさせるわけにはいかない、ということだろうか。
でも、些か唐突に感じた映画のラストよりもこちらの方が説得力があると思う。こういう妄執を抱えた人物が辿る当然の結末という気がする。
この世に存在しない、演技で作られた虚構の女性に恋した男の末路として感動的で衝撃的。

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