『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』

映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』2018年 日本映画 配給:松竹 原作:渡辺一史 監督:前田哲 脚本:橋本裕志 出演:大泉洋 高畑充希 三浦春馬 萩原聖人 渡辺真起子 宇野祥平 竜雷太 佐藤浩市 韓英恵 綾戸智恵 原田美枝子 上映時間120分 ビスタサイズ カラー
2018年12月28日(金)公開
2019年1月3日(木)鑑賞 TOHOシネマズ西新井スクリーン6 13時25分の回 座席:B-14 入場料1100円(シニア料金) パンフレット820円

(注意!)ネタバレあり

実在の人物である筋ジストロフィーの主人公とそのボランティアたちを描いたノンフィクションの映画化。原作は未読だが、予告編などで多少なりとも予備知識があった。重い障害を抱えながらも自由奔放にワガママに生きる男というのが、観る前の印象だった。タイトルにもなったバナナのエピソードの一部を予告編で何度も見せられれば、そんな先入観も植えつけられる。
でも、違った。そんなワガママ男には見えなかった、少なくともぼくには。あのバナナくらいのことは決してワガママの範疇に入らないと思えてならない。
それは、ここ1年程、ぼく自身が寝たきりの父の介護をしてきたせいもあるだろう。だからと言って、他の人に「あの程度は普通」とか言う気持ちはない。人それぞれ、である。特にこういう映画の場合、作品の出来不出来よりも登場人物の好き嫌いで作品の評価が決まってしまうことがあるかもしれない。
そういう映画があってもいい。どういう風に受け取る人がいてもいい。
ぼくにとっては非常に面白く、色々と考えさせられる映画だった。

主人公の鹿野靖明は、難病のため寝たきりの状態であり、自力では寝返りも打てない。そこで24時間ボランティアの力を借りなければ生きてはいけない。そんな厳しい状況にありながら、常に前向きな姿勢でユーモアを忘れず逞しく明るく毎日を過ごしている。
彼を演じる大泉洋の好演なくしては、この映画は成立しなかっただろうと思われる。それほど、ピッタリ役に嵌っている。ああ、こういう人物ならボランティアも付いていくだろうな、と思わせる説得力がある。
そのボランティアもお役所や何かがお膳立てして集めてくれるわけではない。鹿野本人や友人たちが色々なつてをたどって自力で集めたのである。わざわざ大学まで鹿野自身が赴いて「ボランティア募集」のビラ配りまでしている。まさに自己責任で集めているのである。そんなに苦労して集めたボランティアも人の子だ、ある日突然、「辞めます」と電話一つで辞めてしまうこともある。その応対も鹿野自身がやる。
ボランティアは強制じゃないし、鹿野が如何に人気者でも全ての人に好かれるわけでもない。いなくなった者は諦めて新しい人を探すしかない、そうしないと、文字通り鹿野の生死にかかわる。常に鹿野は命懸けである。
綺麗ごとばかりではなく、そういう人間関係の齟齬やぶつかり合いも描かれる。自宅で生活したい鹿野とあくまで病院で診察したい主治医との戦いもある。結構深刻に描けば、ズッシリと重たくなるエピソードもあるのだが、フシギに重くも暗くもならない。過度に感情的なったりせずに、医師を納得させるようなやり方を考え出して突破口を見出したりする。常に鹿野は前向きだ。そして、相手がボランティアであろうと医師であろうと鹿野は対等だ。

実際には、たくさんのボランティアがいたようなのだが、この映画では、美咲(高畑充希)と田中(三浦春馬)という二人に集約させている。パンフレットに依れば、この二人は架空の人物。
二人とも健常者ではあるけれど、それぞれに悩みを抱え、将来を描けないでいる。そんな二人が、鹿野とのかかわりを通してさまざまなことを学び、真新しい気持ちで前に進めるようになる。この辺りが上手い。お説教臭くならないで、お涙頂戴にならず、きちんと感動的である。高畑充希も三浦春馬も良い。
悩める田中に鹿野が「健常者も大変だな」というセリフがいい。これが皮肉でも嫌味でもなく本音に聞こえるのが鹿野の真骨頂だ。田中を演じる三浦春馬も超絶イケメンなのに等身大の普通の悩める若者を演じて見事。主役の多い三浦春馬が、カッコいい見せ場のない役をきちんとやりこなしているのがいい。時には共感できない言動もある若者だけど、根がいい奴というのが演技から伝わって来る。
高畑充希も可愛いだけじゃなく、結構複雑な陰影のある役を演じ切っていて上手い。
映画的には、歩き続ける田中に対して鹿野がずっとしゃべりながら車椅子で並行して動いていくくだりが、比較的動きの少ないこの映画で唯一躍動感を感じるシーン。
お涙頂戴といえば、難病映画ならどこかで主人公を死なせるんじゃないかと危惧(期待?)して観てきたぼくのような観客に背負い投げくらわすシーンがある。鹿野の芝居に登場人物のみならず、観客も欺かれる一幕。
お涙頂戴シーンなしで泣かせる。そして、主人公が死ぬ愁嘆場はなし。そこが素晴らしい。

難病患者の恋やセックス、そして排泄物などのエピソードも織り込んでいるが、それが嫌らしかったり、これ見よがしだったりしないのがいい。決して美談ではないけれど、クスッと笑えてしまう。恋もセックスも排泄物も人間にとってはかけがえないものだから、特異なことではなく、日常的なことだから。





こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 (文春文庫)
文藝春秋
2018-12-04
渡辺 一史

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