『死に山』

ノンフィクション『死に山』DEAD MOUNTAIN 2013年 アメリカ ドニー・アイガー著 安原和見訳 河出書房新社 2018年8月30日初版発行
2019年1月1日(火)読了

(注意!)ネタバレあり

1959年2月、冷戦下のソ連(当時)・ウラル山脈で起きた大学生9名(男子7名、女子2名)の登山チームの遭難事故「ディアトロフ峠事件」を描くノンフィクション。今からちょうど60年前に起きたこの事件、非常に謎めいた部分が多く、いまだにさまざまな推理がなされるが、真相は藪の中。それをアメリカ人ドキュメンタリー映画作家が探っていく。

構成としては三つのパートになっている。一つは事件に興味を持った著者が、調査・取材に取り掛かり、実際に現地に飛び、事件の関係者の生き残りにインタビューし、更に事故現場まで自ら足を運んで確かめるという2012年のパート。もう一つは、登山チームが行動を始めた1959年1月23日から事件が起きた2月1日までのチームの様子を残された資料(9人が残したメモや写真)や同行者(病気のために途中でチームから離れた)の証言で再現してみせるパート。さらにもう一つは、2月の事件発生からの捜索隊の様子や家族・関係者の動向などを描くパート。その三つのパートが交互に記述され、この不可解極まる事件を描いていく。非常に上手い構成だと思う。

事件が起きるまでのパートは、共産主義国ソ連の厳しい状況下でも夢を持って生きて行く若者たちの姿が描かれていて感動的。スターリンの死(1953年)のあとで所謂「雪解け」の頃という事情もあったろうが、若者たちが眩しく明るい。行程の途中で小学校に立ち寄ることになって、小学生の前でスピーチするくだりなど、泣かせる。
そして、この当時のソ連の若者はみんなで歌っていたというのは本当だったんだなあ、と。日本の「うたごえ」運動は明らかにこの影響か。オーストリアのミュージカル映画『黄金の交響曲』(1956年)がお気に入りでみんなでミュージカル気分になっていたというのも面白い。この映画、日本でもやったのだろうか。
こういう青春の美しさが描かれるということでのちに彼らを見舞った悲劇が強調されるということになる。

2012年のパートは、そんなソ連の若者とは世代も時代も違うアメリカ人の著者の視点から描かれている。ドキュメンター映画作家としての商売っ気と作家的好奇心が窺えるが、別に悪いことじゃない。縁もゆかりもなく、変な独断と偏見に染まっていないからこそ見えるものもある。なによりも極寒の現地に自ら行ってみようとする行動力が凄い。
捜索隊のパートは、割と普通のノンフィクションという感じで、どのような経緯で捜索が進められ、関係者がどのように受け止めたかが描かれる。

この事件が謎めいているのは、何が起きたかが分からないことにある。9人全員死亡、という事実のみ確かではあるのだが、その遺体の状況等に腑に落ちないところが多々ある。それで怪しげな陰謀論を始めとして、さまざまな説が従来から取り沙汰されている。著者は、それらの説を一つ一つ検証して潰して行き、最後にある「仮説」に辿り着く。これはここに書くわけにはいかないが、読んでいて「なるほど」と思わせる説得力がある。
もっとも、それもまたあくまでひとつの「仮説」なのであって、それが真相なのかどうかは誰にも分からない。
そこがまた良い。


死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相
河出書房新社
ドニー・アイカー

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