『世界推理短編傑作集 第2巻』 奇妙な味、その他の味

ミステリ(アンソロジー)『世界推理短編傑作集 第2巻』江戸川乱歩編 創元推理文庫 新版・改題2018年9月14日初版
2018年11月17日(土)読了

(注意!)ネタバレあり

20世紀初頭の20年くらいの期間に書かれた推理短編の中から傑作(と呼ばれる)9編を収録。いずれも面白く読む。ただ、やはり100年前後の時が経っているので、古色蒼然という感じでちょっとどうかなという出来のものもある。それはそれで興味深い。9編それぞれについて感想を書いておく。

「放心家組合」(1905年)ロバート・バー
江戸川乱歩命名するところの「奇妙な味」の小説の代名詞みたいな作品。
正直言って今読むと、ここで描かれる犯罪はさほどユニークとは思えない。人間の盲点を突いた詐欺なのだが、この手の特殊詐欺は今も変わらず横行しているので今さら感が強い。
ローンの支払時期を過ぎても無頓着に払い続けているって今でもありそう。借金を言われるままに払い過ぎて過払い金問題が起きたりなんかも何年か前にあった。この作品は先見の明があったと言える。
だが、この作品の面白さはそこではなく、犯人一味のひとりが悪びれずに滔々と語る言い訳なのである。名探偵が、真相を暴いても意に介さず、むしろ逆手にとって証拠隠滅してしまうとはアッパレ。
そして、これはまた名探偵という存在を皮肉ったパロディでもある。警察に雇われているわけでもなく、単に警察に協力している私立探偵というのは、この犯人が言うように警察と違って何の権限もないのだから、証拠品を持ちだしたら窃盗犯なのである。そこを突っ込まれると、名探偵もなすすべなし。その辺が、今でもなお面白い。

「奇妙な跡」(1909?年)バルドゥイン・グロラー
何十年振りかで再読したが、これは強烈な印象を与えてくれた作品なのでハッキリ覚えていた。これほど「意外な犯人」も珍しい。ただし、今現在、これをやると、おそらく非難殺到であろう。「障害者に対する差別と偏見を助長する」「リアリティーがない、障害者はこんな犯罪を犯さない」「人権蹂躙である」などなど。そして、その非難を肯定せざるを得ない。
そのうえでなお、やはりこれは傑作である。ここまでやったか、という一種、感嘆の気持ちを抱く。被害者が犯人をおんぶして歩く様子、そして犯人が被害者を殺し、自力で帰っていく様子を想像すると、後味の悪さと快感が大事に押し寄せる。

「奇妙な足音」(1910年)G・K・チェスタトン
ホテルの一室にいたブラウン神父が、ふと耳にした奇妙な足音。ホテルの廊下からそれは聞こえてきた。
とるにたりない日常の些細な謎が、あ~ら、フシギ、犯罪に繋がってしまう。まるでマジックを見ているかのようだし、まるで『不思議の国のアリス』を探偵小説にしたような味わいがある。リアリズムとはあまり関係がないチェスタトン独特のファンタジーみたい。傑作。

「赤い絹の肩かけ」(1911年)モーリス・ルブラン
小学生の時に読んだ感想は、「警察が間抜けだな」というものだったが、何十年かぶりに読んだ感想は、「警察が間抜けだな」だった。まあ、主人公アルセーヌ・リュパンをカッコよく描くのが眼目だから相対的に警察は無能で間抜けに描かれてしまうのもやむを得ないか。それにしても何故、証拠品を良く調べないのか、あんまりだ。

「オスカー・ブロズキー事件」(1911年)オースチン・フリーマン
倒叙型推理小説の元祖のような作品。同時に科学捜査の元祖でもある。新しい時代の扉が開いた。というべきか。前半は、犯人側の視点で殺人が描かれ、そこで犯人の名前も殺人の動機も犯行の一部始終も明らかになる。そして、後半は、ソーンダイク博士が登場して全くの白紙状態から緻密な科学捜査によって、残された証拠などから犯人に迫っていく。その二部構成の仕組みが面白い。短編なので些かアッサリとしているのがやや物足りない。

「ギルバート・マレル卿の絵」(1912年)V・L・ホワイトチャーチ
「ブルックベンド荘の悲劇」(1913年)アーネスト・ブラマ
「ズームドルフ事件」(1914年)M・D・ポースト
「急行列車内の謎」(1921年)F・W・クロフツ
以上の4編、いずれも機械的トリック、もしくは「ロープと紐を使った」仕掛け、あるいは自然の悪戯によって起きたものなどだが、もうこういうのは面白く感じられなくなってしまった。冒頭の魅力的な不可能犯罪が、種を明かされれば、な~んだということになってしまう。それ以上のプラスアルファがないので、探偵小説としてはいいとしても小説としては甚だ味気ない。真っ当すぎる。やはり、今でも残るのは「奇妙な味」の作品か。





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