『クワイエット・プレイス』 映画史上最高の「I LOVE YOU」

『クワイエット・プレイス』

(注意!ネタバレあり)

というように些か不出来なところ、というか、「もっと面白くなるのに勿体ない」ところはあるのだけど、トータルとしては非常に面白いホラー映画になっている。B級映画的な安っぽさも珍味である。

ラブクラフトは、「恐怖とは人間の持つ最も古い感情である」と書いていたと記憶するが、この映画では、その恐怖という感情の中でも最も古いものを描いている。われわれホモ・サピエンスが、文明などというものを構築する遙か以前、洞窟で家族と身を寄せ合って暮らしていた頃の恐怖。いつ肉食獣に襲われ、殺され、喰われるか、脅えながら生きていた。速く走れる足もなく、肉食獣と格闘して勝てるような頑強な体もなく、いかにもひ弱な生き物、それがホモ・サピエンス=現人類だった。
それがいつの間にか生物界の頂点に立ち、わが世の春を謳歌するようになった。人類を脅かす捕食者も天敵ももはやいない。
だが、もし、人類の前に天敵が現れ、人間どもを狩るようになったら・・・。そういう恐怖をこの映画は描いている。その点で非常に面白かった。天敵が盲目で音に対してだけ反応して襲ってくるという設定もいい。その音の基準もどのくらいの音がマズイかよく分からないところもいい。天敵が人間を殺すのは描かれるが、人間を食べるかはよく分からない。

世界にどの程度、天敵が蔓延したのか、映画は描いていない。軍隊も政治家も科学者もジャーナリストも出て来ない。説明する人間はいない。主人公の部屋に貼られた新聞記事で断片的な情報が分かるだけ。どうやら天敵は宇宙から来たらしい。
低予算映画のせいか、軍隊との派手なバトルみたいなカネのかかりそうなシーンはなく、ただ、農村の一家族が描かれるだけというのもむしろ潔い。
それによって家族というものを描く映画になっている。それも単純に不条理な状況に一致団結して立ち向かう家族という感じではない。冒頭で描かれた一番下の子の死が家族の頭から離れない。とくにその死の原因を作ったと思いこんでいる姉はどこか閉鎖的で孤立している感じがする。この姉リーガンを演じるミリセント・シモンズがいい。所謂カワイイ系ではない面構えが逆にいい。この繊細で難しい役を巧みに表現している。役と同様にミリセント・シモンズも聴覚障害者だという。

そんな娘のために自分の命を犠牲にしてしまう父親役のジョン・クラシンスキー(脚本・監督も)がいい。自己犠牲の精神というのはいかにもアメリカ映画という感じがする。最期に娘に手話で「I LOVE YOU」と伝えるシーンはおそらく映画で描かれた最高の「I LOVE YOU」だろう。




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