『検察側の罪人』 復讐するは我にあり

映画『検察側の罪人』2018年 日本映画 配給:東宝 原作:雫井脩介 監督・脚本:原田眞人 出演:木村拓哉 二宮和也(かずなり) 吉高由里子 松重豊 平岳大(ひら たけひろ) 大倉孝二 八嶋智人(のりと) 酒向芳(さこう よし) 音尾琢真(おとお たくま) 大場泰正 谷田歩(たにだ あゆみ) 矢島健一 キムラ緑子 芦名星(あしな せい) 山崎紘菜(ひろな) 東風万智子(こち まちこ) 山﨑努 上映時間123分
2018年8月24日(金)公開
2018年9月1日(日)鑑賞 TOHOシネマズ西新井スクリーン10 14時40分の回 座席C-8 入場料1100円(シニア割引) パンフレット820円

(警告!)ネタバレあり

原作未読。映画についても殆ど予備知識なし。せいぜい、木村拓哉と二宮和也が検事を演じるということしか知らないというまさにぼくにとって理想的な形で映画を観ることになった。
その結果、非常に面白く観た。まさか、こういうストーリー展開の映画だとは思いもしなかった。

敏腕のエリート検事最上(もがみ)のもとに新人検事沖野が配属される。二人は蒲田で起きた老夫婦殺人事件の捜査に立ち会うが、捜査線上に上がった松倉という男の名を目にした最上は激しい心の動揺を覚える。松倉こそ、23年前に起きた女子高生殺人事件の容疑者だったのだ。そして、その殺された女子高生は、最上が暮らした高校の寮の管理人の娘だったのだ。当時、松倉は厳しい取り調べにも関わらず、否認し続け、結局証拠不十分で逮捕もされず、事件は時効を迎えた。それが今、また・・・。
というのが、この映画の本筋の事件。ただ、この事件だけを直線的に描いてはいない。最上の旧友である代議士丹野が絡む収賄事件も進行している。別に殺人事件とこちらの事件は関連性は何もない。ただ、いずれも最上にとって個人的に関与せざるを得ない事件なのである。

普通の事件ものに比べると、些かストーリー展開がまどろっこしい感じが最初の方にはある。何しろこちらは予備知識がないものだから、何が本筋かはしばらくしないと見えてこない。
新人検事沖野(二宮和也)が、一番最初に担当する案件は諏訪部(松重豊)という闇社会に住む男の聴取である。ここは、二人の男の腹の探り合い、丁々発止のやり取りが実に面白い見せ場になっている。ただ、ここで沖野が聞き出そうとしている事件のことは、これきりで取り上げられない。この辺が面白いが、何が本筋なのか観ていて分からない。だが、映画の後半で諏訪部は別の形で強力な印象を残すことになる。

最上(木村拓哉)の友人丹野(平岳大)の件も結構思わせぶりな描き方。最上が、あるホテルの部屋を訪れる。そこに男がいて・・・、となると男同士のあれか、と一瞬思えてしまう。そういうわざと誤読を引き出すやり方なのである。この辺の原田眞人監督の遊び心は実に面白い。木村拓哉がBLか、ジャニーズ事務所も思い切ったな、と勘違いしてしまいそうになった。

そういう副筋を迂回しながら、やがて本筋の殺人事件の話が浮上していく。そこで登場する容疑者松倉が、演じる酒向芳という俳優の怪演もあって真に凄まじい。あまり見たことないない俳優だが、まだ日本にはこういう凄い俳優がいたのだと思うととても嬉しくなる。あまりにも醜悪なおぞましさを漂わせるこの松倉という男を創出しただけでこの映画の成功は決まったと思う。演技賞ものである。
あまりにも卑小で陳腐で近寄りがたい極悪をよくぞここまで表現した。外形的にも顔にアザまで作って、イケメンの木村拓哉と二宮和也と対峙させるあざとさが凄い。それにたじろがない木村拓哉も二宮和也も見事。

ここで思い切りネタばれすれば、実は松倉は老夫婦殺しの犯人ではないのだ。だが、それを知っても、最上は収まらない。時効になった23年前の事件の犯人であると本人も自供している松倉を絶対に許せない。松倉を冤罪でも構わないから裁判にかけて鉄槌を加えたい。その思いが、最上に検事として人間として越えてはいけない一線を越えさせてしまう。
法で裁けない人間をオレのやり方で裁いてやる!みたいな話は映画では珍しくないが、それをアクション映画のような爽快感ゼロでむしろズッシリ重たく描いて見せるのが上手い。
ただ重たいのだけど、リアリズム重視の映画のように見えて、最上が逸脱して暴走し始めると、どんどん非現実なストーリー展開になる。普通の人間が銃で人を殺すとか、代行殺人みたいなのもあるし、もうなんだかその辺は、最上が見た悪夢なんじゃないかと思える程。

これって木村拓哉にとって新境地を開いた映画と言っていい。何しろ初の「悪役」なのだから。ただ、木村拓哉が演じると同情して応援したくなるのも確か。

人として検事として道を逸脱した最上。裏社会の人間に首根っこを掴まれ、若い沖野に真相を悟られた最上の今後はどうなるのか。映画の終わった先が気になる。
沖野が最上の別荘を訪ねて二人が対峙した後、帰路に就く沖野が叫ぶのが気になる。あの叫びは何だろう。映画はあの叫びで終わる。黒澤明の『野良犬』の犯人のラストの叫びを連想した。

(つづく)


検察側の罪人 上 (文春文庫)
文藝春秋
2017-02-10
雫井 脩介

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