『人類皆殺し』 さらば西欧文明よ

小説(SF)『人類皆殺し』THE GENOCIDES 1965年 トーマス・M・ディッシュ著 深町真理子訳 ハヤカワ・SF・シリーズ 1968年3月15日発行
2018年7月20日(金)読了

(注意!)ネタバレあり

地球外からの侵略と云うか攻撃による人類滅亡ものSF。
異星人そのものは最初から最後まで出て来ない。突如として地球に飛来した無数の胞子、それがやがて巨大な植物に成長、凄まじい繁殖力で地球上の植物を凌駕し、津々浦々まで自らのテリトリーを拡げた。それにより、土地は奪われ、都市は崩壊し、人類の生命そのものを殺戮していった。さらに残った建物、生き残った人間たちは、天より飛来した球体が発する火炎によって全て焼き尽くされた。まさに人類の終わり。
この物語は、そんななかでごく少数生き残った人間たちのサバイバルを描くものである。

異星人(といっていいのか分からんが)の意図は、地球全体を巨大な農地に変えてしまい、やがて時期がくれば、そこでできた作物を収穫し、土地は焼けつくされた。そして、その後、再び無数の胞子が飛来して、また前のように地球は植物に埋め尽くされた。一度きりではなく、何度もそれは繰り替えされるであろう。そういうサイクルで地球はこの先も存在していくのだろう。だが、人類は・・・。

先にも書いたように異星人もしくはそれに類する存在は出て来ない。それに物語は、植物の侵略がかなり進んでからの話なので、人類VS植物みたいな展開はない。人間の政府も軍隊も出て来ない。まさに勝負が既に決した段階なのである。対決なんてものではなく、少数の生き残った人間が必死に植物や謎の球体から隠れて暮らすのみ。いや、対決はあるか。対植物ではなく、人間同士の対決ではあるが。生き延びるための醜くおぞましい人間の姿がそこにある。

もと農民のグループが描かれる。家父長制みたいな形を取った小集団でリーダーのもとに統率がとれている。彼らは、自分たちの縄張りを侵す都市出身者たちを許さない。単に追い出すだけでなく、情け容赦なく殺戮する。だが、今回、一人の男と一人の女が殺されるのを免れ、仲間に入れられる。女は元看護婦で男は元鉱山技師で、そういう職歴もあって生かすことになった。男は、心に復讐の気持ちを抱きながら、グループと行動を共にする。

「もし、宇宙人が攻めて来たら人類は一致団結して戦うだろう」という俗論をあっさり否定するようなシビアでシリアスな話。読んでいて結構しんどい。にもかかわらず面白いのは、巨大植物の詳細な描写だったり、有無を言わせずに燃やし尽くす球体の存在があってこそ。人間どものいざこざなんぞ我関せずというクールさが良い対比になっている。人間側が、支配・従属・憎悪・嫉妬・殺人・出産と盛り沢山なだけに。

高層ビルが立ち並ぶ都市が燃やされていくさまはむしろ美しい。ある登場人物はその光景を見て、
「さらば西欧文明」と言う。

小集団の中の人間関係は図式的で今さら感があるが、人類滅亡という壮大な背景があるので、陳腐にはなっていない。

ディッシュは、球体が好きなのだろうか。昨日読んだ『プリズナー』でも球体が大活躍していたし、今回も重要な役割である。もっとも『プリズナー』の球体は、オリジナルのテレビシリーズにあるものだけど。

登場人物が、ハリウッドスターの話を度々しているのが面白い。全体的にシリアスな話なのに、そこだけ何かユーモアを感じる。キム・ノヴァックを最高の女優だと思っている女性が出て来るのが愉快。

「彼女、まだ生きてると思う?」
「だれ キム・ノヴァック?そうね、たぶんもう生きていないでしょうね。わたしたちが最後じゃないかしら」

また、会話じゃなく、三人称の地の文で、

いままた彼は、デヴィッド・ニーヴンを、でなければもうちょっと陰気なところで、ジェイムズ・メイスンをきどっていた。(75ページ)
とある。

ディッシュは映画好き、俳優好きなのか。

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