『プリズナー』 徘徊者(ローヴァー)との戦い

小説(SF)『プリズナー』THE PRISONER 1969年 トーマス・M・ディッシュ著 永井淳訳 ハヤカワ・SF・シリーズ 1969年8月31日発行
2018年7月19日(木)読了

(注意!)ネタバレあり

往年の名作テレビシリーズ『プリズナー№6』のノベライズ本。
中学生の頃、買って読んだ記憶があるので、ざっと45年ぶりの再読。いつの間にか、処分して久しかったが、先日刊行された『『プリズナー№6』完全読本』の編著者尾之上浩司氏の御好意により、一冊譲り受けた。
誠にありがとうございました。
なにぶん読んだのが45年前なので当然ながらほとんど中身を忘れていたし、覚えていると思いこんでいた箇所も実は間違えだったりして、非常に興味深い読書であった。

ノベライズではあるけれども、オリジナルのテレビシリーズそのままではない。『プリズナー№6』の基本設定は生かしつつも、ディテールを色々いじっている。ニューウェーヴSFのディッシュらしい「作家性」が色濃く出ている。単なる雇われ仕事に終わっていない。その分、娯楽性という点では、やや不満も出るし、ストーリー展開が些かスムーズではなく、難解である。そして、この『プリズナー』の主人公と『プリズナー№6』の主人公が同一人物なのか、疑問も残る。性格その他、微妙に違う気がしてならない。そういうもろもろ含めて、ディッシュの作品になっていることは確かだ。

謎めいた「村」に主人公の男が連れて来られる、という発端からして、テレビとは違う。こちらは何と列車に乗っていた男が車中で拉致され、村に連れて来られる、村には駅がある。ということは、ここは島ではないのか。地続きなにか。もっとも、駅はあっても列車そのものはいないようだが。
村の様子もテレビとは受ける印象が違う。あっちの方がもっとキッチリ管理されているようである。
その辺のところはディッシュの裁量にお任せという感じか。主要ポイントさえ押さえておけば、あとは自由に書いていい、くらいなんじゃないか。
面白いのは、テレビでも印象的だった白い球体が、テレビ以上に活躍すること。まず、球体が白色だけではなく、何種類か色があること。「ピンク色のもあれば、薄青色のもある。わずかだが緑色のもあるし、これは決して出会うことがないと思うが、淡い黄褐色のも一個ある」(56ページ)またベージュ色の球体もある。それは、徘徊者(ローヴァー)と呼ばれ、球体でも特別な存在。「不当に彼を怒らせた人間を抹殺するように作られているのだ」(68ページ)とある。
よほどディッシュは、この球体が気に入ったらしく、男と球体の戦いを克明に何度も描く。愉快なのは、男が球体に対抗するために曲がったアルミニウム・パイプ二十数本で半球状の檻を作ってしまうこと。
何となく、スピルバーグの映画『ジョーズ』で人間が組み立てた檻の中に入ってサメと対決するシーンを思い出した。偶然似たのだろうが。
アクションシーンの少ないこの小説の中で徘徊者との戦いのところはやけに気合が入っている。

テレビだとスパイもののニュアンスがあるのだけど、こちらはカフカ的不条理劇の色が濃い。また、この村の正体については興味深い一文がある。

この村は、疑いもなく、ただ一人の、それもいささか奇怪な精神の持主、日常生活の世界に野放しにされた不吉なディズニーのような人物の頭で考えられたものだった。(27ページ)

比喩とはいえ、実在した人物の名前出すかね。でもお蔭で、ディッシュが想定している「村」が某ディズニーランドみたいなものだということが分かる。東西冷戦もスパイも関係ない。ひとりの狂える天才が考え出した夢の国。
そういえば、テレビの「村」もヨーロッパのどこかの国に似てはいるのだがどこか違う感が絶妙だった。アメリカ人がイメージするヨーロッパの国をイギリス人が皮肉交じりに作り上げたニセモノ感がある。
ラストで明かされる№1の正体もまさにニセモノ、作り物。アイラ・レヴィンの『ステップフォードの妻たち』にちょっと似ている。そういえば、あの小説にもディズニーの名前が出て来るし、重要なポイントになっている。

ちょっと難しく、退屈な部分もあるが、テレビと比較して読みつつ、ディッシュの世界を楽しむという二倍お得感があり、なかなか面白い小説であった。




『プリズナーNo.6』完全読本
洋泉社

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 『プリズナーNo.6』完全読本 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック