『野菊の如き君なりき』 恋に生き、恋に狂い、恋に死す

『野菊の如き君なりき』1955年 日本 松竹 原作:伊藤左千夫 脚色・監督:木下恵介 音楽:木下忠司 出演:田中晋二 有田紀子 田村高広 小林トシ子 浦辺粂子 杉村春子 笠智衆 上映時間92分 モノクロ
2018年6月24日(日)鑑賞

(注意!)ネタバレあり

伊藤左千夫の原作小説『野菊の墓』を読んだのは中学生のころ。それ以来読み返していないので、殆んど忘れてしまった。若い男女の悲恋物語で、ラストで女性の方が病気で死んでしまう、というアウトラインくらいしか覚えていない。あと、ラスト一行のある部分について、中学校の国語の先生が「これは酷い」と言ったのを何故か覚えている。確かに、酷いとぼくも思ったが、もう一度読み直してみないと今は何とも言えない。

この映画の方は初見。名作としての評価は高いがどんなものかと観てみた。
先ず、のっけから木下忠司(監督木下恵介の弟)の音楽にやられる。この哀愁に満ちた旋律に乗せられてしまう。全編、これでもかと音楽が流れ、作品を盛り立てる、というかむしろ支配する。こんなに音楽の効果、絶大な映画も珍しい。

物語は、笠智衆演じる73歳の老人が何十年振りかで生まれ故郷に帰って来たところから始まる。彼は船頭がこぐ小さな船に乗っている。
実家は旧家だったが、戦後の農地改革で没落し、兄は死に、代替わりしていて、大きな屋敷は住む人もなく、荒れ果てるばかりで近所の子どもたちからは「お化け屋敷」と呼ばれている。
老人は、
「私が生まれた家がお化け屋敷ですか」
と呟くが、そこには怒りや悲しみよりも諦めと自嘲がある。

そんなことを船頭と話しながら、老人は60年前のことを回想していく。現時点がこの映画が公開された昭和30年とするならば、60年前は明治30年ころの筈。老人は15歳の少年・政夫であり、そして少女は、17歳の少女・民子である。恐らく当時は数え年で歳を表していたので今の満年齢式とは違う。今風に見ると15歳・17歳にしては幼い感じがするのはそのためだろう。
大きなお屋敷である政夫の実家にいとこである民子は生活を共にし、家業である農業を手伝ったり、身の回りの世話したりしている。二人は幼馴染。今でもとても仲がいい。その様子が微笑ましく明るく描かれる。
民子は明朗な感じで政夫に対してかしこまることもなく、何事もハキハキと言う。屈託のない明るい少女。ここでそういう姿を見せておくことが後々効いてくる。
一方、政夫はいかにも朴訥な田舎の少年という感じ。何につけ子どもっぽく頼りない。二つ年上の民子に引っ張られている印象。
そんな純朴な二人だが、周囲はどうしても色眼鏡で見る。結婚前の、しかもまだ子どもの二人が仲良くしている様子が、気に障る、我慢できない。子どもとは言え、男と女である。邪推、やっかみ、嫉妬、嫌悪、憎悪みたいな負の感情を家族や村人の中には持つ者も出て来る。そして、イジメ、嫌がらせ、からかい、揶揄、悪口、陰口という攻撃となって来る。もう、この辺は、今観ても「分かる、分かる」である。こういうところ、今も昔も変わらない。人間の最も醜悪な姿である。
それまでのいかにも子どもっぽい、恋愛以前というような二人の甘酸っぱい関係を観て来ただけに、この辺の展開は心にいたく響く。明るい少女は、次第に追い詰められていく。

若くして病で死んだ少女の悲恋物語、と思っていたし、確かに少女は病で死ぬのだが、実は周囲の大人たちに潰された、それがこのオハナシの眼目だったのか。
政夫の母や義姉によって政夫は予定を早めて家を出て中学(今だと高校)に行くことになり、さらに民子は民子の両親によって決められた男と結婚することになる。どちらも政夫と民子の仲を引き裂こうという意思のもとに。
もっとも、引き裂くといっても根性曲りと言われる義姉以外は、さして悪意があるわけではない。むしろ、親心というべきか。いとこ同士でまだ若い二人が恋愛・結婚するよりも、政夫は勉強に専念し、民子は裕福な家にお嫁に行った方がいい、という合理的な解決策だったのだ。だが、そこに二人の気持ちを尊重するという考えは微塵もない。
民子の結婚に唯一異議を唱えるのが、民子の祖母だというのが面白い。いちばん年寄り(と言っても60歳だが)が、若い人の恋愛に共感しているというのが堪らない。老人は保守的ではなく革新的で恋愛至上主義だというのが意外性もあって上手い。
祖母は、「60年生きて来て一番うれしかったのは、おじいさんと一緒になれたこと。それ以外はあってもなくてもどうでもいいこと。反対はしないが、もっと民子の身になってやれ」
という趣旨のことを言う。祖母役の浦辺粂子の名演もあってここは大いに泣ける。

(つづく)



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