『マンガは今どうなっておるのか?』 まだやおいが存在していた時代

『マンガは今どうなっておるのか?』夏目房之介著 メディアセレクト 2005年9月30日初版第1刷発行
2018年6月2日(土)読了

13年前に出版された本なのでタイトルに「今」とあっても、それは当然ながら13年前の「今」であって、2018年の本当の今から見れば昔の話で内容的に古いのはいたしかたない。いや、逆にその古さがタイムギャップを感じて面白いと言える。
内容的には作品論(『のだめカンタービレ』『鋼の錬金術師』『王道の狗』など)、作家論(白土三平、浦沢直樹、永島慎二など)、マンガの歴史(戦前マンガ、児童マンガから青年マンガへの変遷、新書マンガが出始めた時代など)、漫画業界(雑誌・出版の問題点、編集者とマンガ家の関係性など)等々、マンガについて実に多種多様なことについて語っていて、勉強になるし面白い。
ただ、電子書籍については全く触れられていない。13年前はまだそういう時代ではなかったか。ネットでマンガが無料で読めてしまう(違法合法両方)今からすればまさに隔世の感。もっとも、この本のオリジナルは、そもそもウェブサイトに載ったものだそうなので(加筆・増補した)この本自体もインターネット時代の産物と言える。

何箇所かに「やおい」という言葉が出て来るのも興味深い。今やだれも使わなくなった死語だが、13年前は現役で生きていたのか。「やおい」はやがて「BL」になったと見るべきか。ただ、「やまなし、いみなし、おちなし」の「やおい」と「BL(ボーイズラブ)」が同義語とは言い難い。

153ページに、
「出版不況で連載が単行本にならない作家もふえているといわれ、単行本の初版部数も下がっている。もうかる作家とそうでない作家が極端に分かれ始めている可能性は否定できない。いいかえれば、ここ10年でマンガ家のインセンティブ(奨励)は確実に落ちているはずだ。」
とある。13年前に既に出版不況だったのか。いや、もっと前からかも知れない。そして、13年後の今、状況は良くなっているどころかむしろ悪くなっているように見受けられる。相次ぐ紙媒体の雑誌の休刊、出版点数こそ多いが売れ行きダウンの単行本、頼りの電子書籍も大儲けというところまで行っていないようだ。
マンガ家がツイッターで、「新刊が出ました。是非買ってください、売れないと続刊が出ないんです。」と訴えるような事態はもはや珍しくない。
もう既に13年前から問題は顕在化していたが、あえてみんな見ないふりしていたのか、上手い対策が取れなかったか。
一般書店でビニール包装して売られているマンガの単行本についても80ページで苦言を呈している。「中身が見えないので選びようがない」「流通・出版はマンガ読者=消費者の選択制を平然と奪ってきた」
まことに仰る通り。売れるのをいいことに既成権益に胡坐をかいて古色蒼然とした殿様商売をしてきた当然の帰結だろう。ま、最近は「お試し読み」とか称して、最初の数十ページが読める小冊子とか置いてあったりして、中身を見せる努力はしているようだが。

『マンガ夜話』の話もあって、何だか懐かしい。正直言ってああいう番組がなくなったのは、非常に影響が大きい。これは映画でもそうなのだが、幅広い層に啓蒙するテレビ番組が、そのジャンルにとっていかに大切なことか、である。歴史を辿り、さまざまな作品を知り、それに対する他人の意見を聞くということ。それがなくなれば、そりゃ衰退するわ。

そういう業界話だけでなく、作家論・作品論も非常に面白い。ぼくが何となく苦手意識を持っていた白土三平について論じているのも興味深い。結構頷けることが多い。そして、白土三平が読みたくなる。






マンガは今どうなっておるのか?
メディアセレクト
夏目 房之介

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