『刑事マルティン・ベック 笑う警官』 スウェーデン・ストックホルムの闇

『刑事マルティン・ベック 笑う警官』1968年 スウェーデン マイ・シューヴァル ペール・ヴァールー著 柳沢由実子訳 角川文庫
2018年4月3日(火)読了

(注意!)ネタバレあり

初めて読んだ。
ちょうど半世紀前に刊行されたスウェーデンのミステリだが、今読んでも十分面白かった。

1967年11月13日の夜、スウェーデンのストックホルムで大規模なベトナム反戦・反米デモが行われた。同じ夜、同じストックホルム市内を走るバスの中で銃乱射事件があり、8人の死者と一人の重症者を出した。そしてその生き残りの一人も今わの際に謎めいた言葉を遺して死んだ。死者の中には現職の刑事もいて、彼が如何に事件に関わっているのかが問われる。
警察本庁殺人捜査課主任捜査官マルティン・ベックおよび同僚たちは、地道な捜査に当たっていくのだが・・・。

訳者あとがきによれば、ここに出て来る反戦・反米デモは史実だそうだ。そこに架空の銃乱射による大量殺人を持ってきたのがミソであろう。当時のスウェーデン人が読めば、もっとピンと来るのものがあるに違いない。ただ、時代も空間も遙かに違うぼくにとっては、ただなるほどと思うしかない。

一読して、ちょっと驚いたのは、エド・マクベインの『八十七分署』シリーズのあからさまな影響。特にシリーズ中の一編『クレアが死んでいる』(1961年)にとてもよく似ている。あの作品では、書店で銃乱射事件が起きて大量殺人になる。一人だけ重傷で生き残った男が、今わの際に謎めいた言葉を遺して死んだ。剽窃と言われても仕方ないような類似性がある。捜査に当たる刑事たちもさまざまな個性の男たちがいるところもきちんと真似している。
でも、まあ、マクベインの方が派手でハッタリが効いているのに対して、こちらは、比較的地味。マルティン・ベックもそんなにヒーローっぽくない。試行錯誤しながら、足で稼いで真相に近づいていく刑事たちを描くストーリーは読み応えある。アメリカのエンターテインメントを上手くスウェーデンの風土に移入したという感じ。11月から1月にかけての話なので寒さもあり、それが独特の味付けをしている。

スウェーデンというと、男女平等が進み、高度な福祉制度の理想社会、と捉える人が今も昔も日本には多い。でも、これはミステリなので当然ながら犯罪と犯罪者が出て来るので、そういう理想社会の話では文字通りオハナシにならないから、これでもかとスェーデンという国、ストックホルムという都市の暗部が暴露される。人間の悪行は何処の国もさして変わらない。
男女平等とは言うけれど、この50年前に書かれた小説の主役である刑事チームは全て男で女性は一人もいない。まあ、この時代はそんなものか。
外国人が多く住む地域の描写に既に移民・難民問題の萌芽が見える。多民族国家スウェーデンの姿が興味深い。

やがて事件は、過去に起きた未解決事件に繋がっていることが明らかになる。ここで面白いのは、ストックホルムの警察では、事件がなくて忙しくない時は、刑事が個人的に過去の未解決事件の調査をしていいことになっていること。勿論、上司の許可を得てだが。
過去に捜査チームを組んで解決に至らなかった事件を一人で調べ直しても成果が上がるのだろうかと思うのだが、もしここで解決したら刑事個人の栄誉になるから結構本気なようだ。そして、今回殉職した刑事は、どうやら未解決事件の糸口をつかんで、それで殺されたらしい。
この辺がクライマックスでラストに繋がっていくのだが、ミステリとしたら割合平凡。過去の事件が蒸し返されることによって新しい事件が起きる、というのはミステリの常道だから。
それの邪魔者を消したいために大量殺人を起こすという心理が今一つ分からない。

そんな瑕瑾もあるが、それでも全体的には非常に面白く読んだ。傑作。
刑事マルティン・ベック 笑う警官 (角川文庫)
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2013-09-25
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