ウィリアム・ワイラーを見る1 『西部の男』 賢者の贈り物

映画(DVD)『西部の男』THE WESTERNER 1940年 アメリカ 監督:ウィリアム・ワイラー 製作:サミュエル・ゴールドウィン 撮影:グレッグ・トーランド 音楽:ディミトリ・ティオムキン 出演:ゲイリー・クーパー ウォルター・ブレナン ドリス・ダヴェンポート フォレスト・タッカー 上映時間99分 モノクロ 日本語字幕スーパー版
2018年1月2日(火)購入・鑑賞

(注意!)ネタバレあり

南北戦争後のアメリカ、テキサスのある町。牧畜業者と開拓農民が対立しているその町に素性の知れぬ流れ者の男がやってくる。という話の展開は、のちの『シェーン』(1953年)と同じ。違うのは、この町を支配するのが、西部に名高き判事ロイ・ビーンであること。
ロイ・ビーンは実在した人物で、判事であり、酒場の経営者。自分の酒場を法廷にして、そこで裁きを行うという、「俺が法律だ」的な結構滅茶苦茶な男。ぼくくらいの年齢の映画ファンだと、ポール・ニューマンがロイ・ビーンを演じた『ロイ・ビーン』(1972年)が思い出に残っている。監督ジョン・ヒューストン 脚本ジョン・ミリアスという豪華な組み合わせだったが、ミリアスとしては、ヒューストン演出に大いに不満が残ったようである。「アンディ・ウィリアムズの甘ったるい音楽に乗ってロイ・ビーンと熊が戯れるシーンとか、耐え難い」とインタビューで答えていたのを記憶している。ぼくは公開当時映画館で観たが、すっとぼけたユーモアの異色西部劇という感じでおもしろかったように思う。ポール・ニューマンも圧倒的に魅力的だった。

こちらのロイ・ビーンを演じるのは、ウォルター・ブレナン。ポール・ニューマンのイメージがあると、随分年寄り臭いロイ・ビーンに見える。そんなにタフな感じでもないし。予想したほど極悪非道でもない。主人公の流れ者の男コールを演じるゲイリー・クーパーが、背が高くてハンサムでタフな感じがするのと対照的だ。どう考えても、ゲイリー・クーパーの方が腕力でも銃撃でもアッサリ勝ってしまいそう。
そこで、映画ではロイ・ビーンを単純な悪役にしないで、かなり異色な人物設定にしている。どこか狂的なところもあるが、愛すべきところもあり、ユーモアもある人物になっている。これが何処まで実録に近いか知らないが。

流れ者コールが町に着いてすぐに馬泥棒の疑いを掛けられて法廷(と言っても酒場だが)に連れて来られる。それが、コールとロイ・ビーンの出会い。もうこの辺から二人が惹かれあっているのが明白。歳の離れた男同士の友情、もしくは愛情が強く感じられる。今風にいえば、BLだろうか。敵対してもどこか相手のことを憎からず思っている二人。酔いつぶれて一つベッドに寝てしまった二人。何だか当時としてはギリギリのシーンではないか。

ロイ・ビーンは、罪人と判断し、裁きを下した者をすぐ絞首刑にする男だが、実は彼自身が、昔、絞首刑で首を吊られたことがあると自ら告白する。どうして助かったかは語られないが、今でもその時の後遺症で首がおかしくなる。コールに頼んで首を直してもらうシーンがあり、ダークなユーモアがある。

ロイ・ビーンが、思いを寄せているのは、女優リリー・ラングトリー。この人も実在の人物で、調べてみると、イギリス皇太子の妾だったりするし、他にも画家のミレーや作家オスカー・ワイルドと交友関係もあったりするという結構凄い女性。
ロイ・ビーンは勿論会ったことがなく、酒場に彼女のポスターを飾って悦に入っているのみ。今で云うと熱烈なるアイドルファンか。
そこでコールが、リリー・ラングトリーに会ったことがある、彼女の髪の毛も持っていると言うものだから、それを真に受けるロイ・ビーン。権謀術策に長けた彼が、アッサリ信じてしまうというのも悲しい、いや恐ろしいファン心理。コールから譲り受けた髪の毛を大事にしまうロイ・ビーン。このフェティシズム溢れる異常なシーンが、純情な男のロマンに思えてしまうのが危ういし、面白い。勿論、それはリリーの髪なんかじゃない。コールが、農民の娘(ドリス・ダヴェンポート)に頼んで切らせてもらった髪の毛だ。この娘は、一応ヒロインの扱いなのだが、今一つ影が薄い。出番は割とあるのに。結局、ロイ・ビーンがヒロインだからか。
それにしても、恋心を抱いている男から「髪を切らせて」と頼まれ、髪の毛を渡す気分はどうだろう。「ああ、宝物みたいに大事にしてくれるんだわ」と悪い気はしないだろう。まさかそれが敵対する老人へに渡されるなんて夢にも思わない。とんだ、賢者の贈り物である。

結局、ロイ・ビーンに裏切られたコールが、ロイ・ビーンと対決するのが、クライマックスのシークエンス。
アメリカ巡業にやってきたリリー・ラングトリーが公演する劇場を貸切にしたロイ・ビーンが客席で開幕を待っている。やがて幕が開く、そこに立っていたのはコールだった、そこで始まる銃撃戦。ただ、この戦いはむしろアッサリ終わる。むしろ、そのあと、倒れて息を引き取る寸前のロイ・ビーンをコールがお姫様だっこして楽屋に連れて行き、リリー・ラングトリーに最初で最後の対面をさせるシーンの方がメイン。至福の表情で臨終の時を迎えるロイ・ビーン、彼の手にはあの髪の毛がシッカリ握られていた。なんという純情、何という残酷。映画史に残る名シーンである。

ウォルター・ブレナンは、この演技でアカデミー賞助演男優賞を受賞。

『ロイ・ビーン』を異色西部劇と書いたが、この『西部の男』の方がもっと異色だわ。BLであり、アイドル論であり、フェティシズムであり、ダークなユーモアがある。紛れもない傑作。



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