スタニスワフ・レムを読む2 『宇宙飛行士ピルクス物語』 翼よ、あれがパリの灯だ!

SF(短編集)『宇宙飛行士ピルクス物語 上・下巻』1971年 ポーランド スタニスワフ・レム著 ハヤカワ文庫 2008年9月15日発行
2018年1月1日(月)読了

(注意!)ネタバレあり

宇宙飛行士ピルクスなる人物を主人公にした連作短編集。上下巻合わせて短編10編収録。内容的には、所謂ハードSFでリアル指向な感じ。宇宙飛行士が宇宙船航行中に出会った事故や事件を描く作品が多い。残念ながらと言っていいのか、異星人と遭遇したりする話は皆無。ま、一つだけ、異星人の遺物の如き存在がチラッと登場する話はあるが、異星人そのものは出ない。事故や事件は、色々あるけれど、人為的なものというよりも機械(ロボット含む)が引き起こしたものが多く、人間がそれに巻き込まれるという展開。

全10編、個々の感想を簡単に記す。

「テスト」
まだ宇宙飛行士の訓練生時代のピルクスの話。宇宙への訓練飛行に出発したピルクス。気付けば、彼の操縦するコックピットにハエが入り込んでいて彼は動揺する。やがて危機的状況に陥るのだが・・・。
訓練飛行の話、というだけでオチが読めて、実はその通りなのだが、ハエというのがなかなか愉快。ビリー・ワイルダー監督のリンドバーグ伝『翼よ、あれがパリの灯だ』でもコックピットのハエが印象的だったと思い出す。あっちは、ハエと友だちになるんじゃなかったかな。

「パトロール」
宇宙パトロール中に行方不明になる宇宙飛行士が2名相次いだ。一人乗り宇宙船とともに忽然として消えたのだ。そんななか、ピルクスがパトロール飛行していると、彼は宇宙船のスクリーンに光る物体を発見し、その追跡を開始したのだが・・・。
そのものの正体は、異星人の宇宙船などではなく、機械のバグだったというオチが面白い。人間はミスを犯すが機械はミスを犯さない、というのは間違いで実は機械もミスを犯し、人間を誤誘導していく。異星人オチよりも示唆に富んで面白い。この他の作品でも「狂った機械」とそれに翻弄される人間の話が目立つ。

「〈アルバトロス〉号」「テルミヌス」
両方とも多数の人間が乗った宇宙船が宇宙空間で事故を起こす話。それが連続で並んでいる構成はどうなの?と思うが、前者はピルクスがリアルタイムで目撃した事故の話、後者は19年前に起きた事故をピルクスが追体験する話と切り口を変えている。
「テルミヌス」は、乗員全員死亡したのだが、唯一ロボットだけが生き残った。そのロボットが、断末魔の人々の叫びを記憶していて・・・、という話。話はまるで違うけど、『ミステリーゾーン』の「海底の墳墓」思い出した。
それにしても、19年前の事故で乗員全員死亡、船体大破損の宇宙船を修復改造し、履歴を隠蔽し、船名を変え、普通に中古宇宙船として新しい買い手に売りつける、というのは実に阿漕なやり方。そりゃ、死者も過去から恨み言を呟きたくなるハズ。

「条件反射」
これも「パトロール」に似た話。月面基地で起きた死亡事故を調べるピルクスが、前任者と同じ状況に追い込まれる。機械と人間の齟齬というか、人間の思い込みの危険性みたいなことを描いている。

「狩り」
隕石が電子頭脳に当たったことによって障害をきたした工作機械ロボットが、人間に向って攻撃を仕掛けてくる話。心ならずもロボットが人間の敵になってしまうのが面白い。さらにラストの戦闘の最中で実はロボットはピルクスを救ったのではないか、という含み持たせるオチが上手い。

「事故」
惑星の調査活動に参加したのはピルクスたち3人と1台のロボット。そのロボットアニエルが行方不明になり、やがて岩壁から転落して壊れているのを発見される。アニエルに何が起きたのか、プログラムが狂ったのか、それとも。ハッキリとは書かれていないが、決められた行動しかしない筈のロボットが予定外の岩壁に挑んだのは、彼の電子頭脳に何か人間みたいな思考が生まれたのではないかと思えてしまう。

「ピルクスの話」
唯一、異星人の宇宙船らしきものが登場する話。ピルクスが宇宙空間で遭遇した正体不明の巨大宇宙船。だが、それはピルクスが呼びかけても応答しないし、照明弾にも反応しない。どうやら、船には生き物は誰も載っていないし、船自体も何百万年も宇宙をさまよっているに違いないとピルクスは思う。
話はそれだけ。何の展開もないのが却って印象的。

「審問」
ピルクス船長に対して提案された実験、それは与えられた乗員の中に人間と見分けのつかないロボットを交じって参加させること。誰がロボットなのかは、ピルクスも知らない。知っているのはロボットを送り込んだ側の人間とロボット本人のみ。
誰が人間で誰がロボットか、そもそも人間とは何か、まことに面白いテーマなのだが、どうも構成に難ありで隔靴掻痒の感強し。これは他の作品にも言える。アイデア、ストーリー展開は、ごく一般的なエンターテインメントSFなのにどうにも回りくどい表現が多く、スッキリしない。

「運命の女神」
これもどうもいまひとつよく分からない話。ポーの「お前が犯人だ」を下敷きにしたラストの趣向は面白いのだが、そこに至るまでがどうにもカッタルイ。


宇宙飛行士ピルクス物語 (1980年) (海外SFノヴェルズ)
早川書房
スタニスワフ・レム

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 宇宙飛行士ピルクス物語 (1980年) (海外SFノヴェルズ) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック