『ジャンパー ━跳ぶ少年━ 上下巻』 世界貿易センタービルにて

小説(SF)『ジャンパー ━跳ぶ少年━ 上下巻』JUMPER 1992年 アメリカ スティーヴン・グールド著 公手成幸(くで しげゆき)訳 ハヤカワ文庫SF 1997年10月31日発行
2017年11月21日(火)読了

(注意!)ネタバレあり。映画版『ジャンパー』のネタバレもあり。

ダグ・ラーマン監督の映画『ジャンパー』(2008年)を見て、非常にダメダメだったので、原作の小説はどんなものかと思い、読んでみた。いや~、驚いた、というか、呆れた。原作小説と映画、まるで別物。共通しているのは、主人公の名前デイヴィッドと彼にテレポーテイション能力があることぐらい。そしてその能力でお金を手にしたところ。あとは、主人公の性格からストーリー展開までまるで違う。よくもまあ、ここまで改変、いや改悪したものである。そのマイナスの努力には、失望しか感じない。

小説では、主人公デイヴィッドは17歳。父親に暴力を振るわれていた彼は、ある日突然、テレポーテイション能力(作中ではジャンプという)を発揮し、気づけば自宅から離れた図書館にいた。それを機に彼は家出してニューヨークにやって来て新しい生活を始める。映画では、川で溺れそうになり、能力が発動して、というのがキッカケだった。映画の父親もろくでもないが、小説の方が父親の虐待の酷さが伝わってきて、主人公に肩入れしたくなる。これ、大事なところ。映画も小説も主人公が銀行にジャンプして大金を盗むシーンがあるが、映画だと、ここで主人公に好感が持てなくなる。同じことをしても、主人公の置かれている状況の厳しさが描かれている小説の方が感情移入して、主人公に同情したくなる。
そして、何より主人公は、まだ童貞。そこがいい。映画の方は、ヘイデン・クリステンセンが演じているが、彼じゃ童貞に設定するのは無理でイケメンのヤリメンになっている。その辺も映画に乗れなかった理由。

肝心要のジャンプ能力も小説と映画では違う。小説の方では、デイヴィッドが実際に行ったことのある場所にしかジャンプできない。シッカリその場所に足を踏み入れ、そこを記憶してしなければ、能力は発動しない。そういう制限を設けたのが面白い。決してオールマイティではない。ところが、映画の方のデイヴィッドはオールマイティである。行ったことがない土地であっても、その場所のガイドブックか何かで写真を見ただけで、そこへ行けてしまう。だからどこでもドアよろしく世界各地に出没できる。

映画の方では、デイヴィッドはパラディンという秘密結社に命を狙われる。パラディンは、中世からジャンプ能力者抹殺して来た存在だそうである。映画の大半は、デイヴィッドとパラディンの死闘に費やされる。そこには、デイヴィッドと同じ能力を持つ男グリフィンも加わる。
ところが、小説には、パラディンなんて影も形も出て来ない。これには、心底驚いた。小説の方の敵役は、イスラム教のテロリスト、ラシード・マタール。彼は、デイヴィッドの母親を無残にも殺しているのだ。後半部は、デイヴィッドの復讐譚と言っていい。その復讐には、自分や母親に暴力を振るってきた父親も含まれる。
(追記)グリフィンを主人公にした続編があって、そこにパラディンが出て来るとのこと。

なかなか姿を見せないマタールを捕まえたデイヴィッドは、世界貿易センタービルの百十階の展望デッキにマタールと共にジャンプしてマタールを突き落す。もっとも、その後で助けるのだが。
それにしても、イスラム教のテロリストを世界貿易センターから突き落とすって展開には唖然。この小説は、1992年出版だから、当然ながら著者はその後、2001年にその世界貿易センタービルがイスラム教のテロリストによってよって崩落するということなんて知る由もない。こういう、偶然というのもあるもんだ。

「この通りを北に行くと、トランプタワーがある。あそこのロビーなら手洗所があるよ」
というセリフが、上巻の60ページにある。もしこの小説を何年か前に読んだら、何も感じずに読み飛ばしただろう。トランプタワーのトランプが人名とも知らないし。まさか、この小説が出版された25年後にそのトランプタワーの持ち主がアメリカ合衆国大統領になるとは思わないだろう。
現実はSF作家の空想の上を行く。

ともあれ、この作品は、17歳~18歳くらいの若者の気持ちに寄り添ってスピード感満載で書かれたジュヴナイルとして傑作であると思う。ラストも爽快感がある。ただ、主人公が考える程、平穏無事な日々がやって来るとは考えにくい。束の間の幸福といった感じ、そこがいい。


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