岬兄悟を読む1『感情伝染』 

小説(短篇集)『感情伝染』岬兄悟著 ハヤカワ文庫JA 1992年3月31日発行
2017年10月28日(土)読了

(注意!)ネタバレあり

ショート・ショート20編収録。「ホラーハウス」という怪奇少女コミック雑誌に連載(89年~91年)されたものなので、四半世紀の時が経っているが、1発ネタのアイデア・ストーリーなので割と面白く読める。ディテールは、やや古臭く感じるところもあるが、荒唐無稽で奇想天外なネタはなかなか良いのも多い。
掲載誌の関係からか、20編すべてが、若い女性が主人公で、彼女の一人称で書かれる。1編ごとにヒロインは違うが、どれもヒロインがトンデモナイ異常現象に遭遇するオハナシ。若い女性読者に興味を持たせるためか、ヒロインの身体や精神に異変が起きるものがほとんどを占める。
面白かったもの、気になったものについて簡単に感想を書く。

「五感テレパス」
付き合っている好きな男の子の五感(嗅覚、味覚、視覚、触覚、皮膚感覚)が、伝わってくるようになった女子高生の話。それもすぐそばにいるのではなく、遠く離れても、伝わってくる。そのうちに、その男の子だけではなく、他の人の五感までもが、自分の身体に伝わって来て、やがて・・・。
テレパスって普通は、相手の感情が伝わって来るものだが、それが5感というのが面白い。オチも上手い。

「感情伝染」
喜怒哀楽の感情の起伏の激しい若いOLが主人公。最初のうちは、彼女の感情の状態に家族が共鳴してしまう。彼女が不機嫌だと家族みんなも不機嫌になり、悲しむとみんな涙ぐみ、とモロに影響を受けてしまう。やがてそれが家族のみならず、周辺の人々にも波及して行って、彼女のその時々の感情の変化にみんなが同化していく。やがてそれは、日本国中の人間すべてに広まっていき、やがて日本の運命すら左右するようになる。

不機嫌なときは大胆にもそこらじゅうの国に戦争をしかけようとしたし、躁状態のときは困っている国に気前よくいくらでもポンポン援助をしたし、沈んでいるときは鎖国をして自閉しかねなかった。
コロコロ変わる日本に世界中の国はあきれはてた。(114ページより引用)

これは、ファシズムの暗喩かな。特殊な思想で国民を一つにまとめ、独裁国家としてしまう、という。もっとも、このOLには、独裁の意識などないし、そもそも思想などもない。ただ、感情の起伏があって、それに日本人全てが無意識的に振り回されているだけだ。この発想は実に面白い。

「伝言魔」
これがいちばん時代的ギャップを感じさせる作品。駅に伝言板というものがあったということを知識として知らない若い人には、理解不能だろう。そもそも、何故、そんなものが必要だったのか、という説明も必要だし、ケータイ電話なんていうものがない時代がかつてあったということを納得させるのも大変。
ともあれ、これは、そんな伝言板を巡るオハナシ。もうそれだけで面白い。

「苦しみは他人に」
頭痛、尿意、便意、寒気、かゆみ、くしゃみ、などの生理現象による生理的感覚を念を込めるだけで他人に転移する能力がある女性の話。ラストは、彼女が結婚・妊娠し、やがて出産ということになって、一番苦痛だという「分娩の苦しみ」を最愛の夫に転移しようと決意するところで終わる。鮮やかなオチ。

「オタクの部屋」
幽霊が出る部屋を借りてしまった女子大生の話。困ったことにその幽霊はオタクだった。綺麗な女子大生が気に入ってその部屋から出られないようにしてしまった。それに対抗して、女子大生は、思い切り部屋を汚し、生活態度も乱し、思い切り、ブ●になってやった。女子大生に幻滅したオタクの幽霊は女子大生を開放したという顛末で、さらにその後で、女子大生がイケメンの彼氏に部屋に転がり込むのだが、彼にもどうやら「隠れオタク」の気配が・・・。
オタクネタが面白い。オチのつけたかたもいい。
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