『手塚治虫恐怖短編集』 妄想の恐怖、その他の恐怖

マンガ『手塚治虫恐怖短編集』手塚治虫著 講談社漫画文庫(2000年~2001年刊行) 第1巻『妄想の恐怖編』 第2巻『悪魔の迷宮編』 第3巻『消滅の世界編』 第4巻『科学の暴虐編』 第5巻『妖しの怪談編』
2017年1月2日(月)読了

手塚治虫の作品を「恐怖」をテーマに全5巻にまとめたもの(後でさらに2巻追加されたようだ)。一口に「恐怖」と言ってもその表現の仕方はさまざまでSFあり、ファンタジーあり、ホラーあり、ミステリあり、実録ものありと実にヴァラエティに富んでいる。今さらながら手塚治虫の引き出しの多さに感心するばかりである。
以下、印象に残った作品について感想を記しておく。タイトル後の年号は作品の初出の年。

(注意!)ネタバレあり

「ボンバ!」1970年
ある若者が他人に憎しみを抱くと、彼の潜在意識のなかの「馬」が具現化し、破壊と殺戮を繰り広げる、という話。平井和正が書くような話。平井和正原作の『スパイダーマン』では、潜在意識下の「虎」が具現化するのだったが。どちらも面白いが、この「ボンバ!」の方は話がエスカレートして、憎い相手が次第に人間全部に及んで行くという展開になる。それを愛の力が解決するというハッピーエンドになるのだが、潜在意識下であろうと、たくさんの人々を殺した若者がハッピーエンドでいいのかねえ、という気にもなる。普通だと、若者が死ぬ勧善懲悪的ラストになるはずなのだが、そこを外したのが面白い。

「赤の他人」1970年
ある少年が小さなきっかけからこんな思いに囚われる。「ぼくの人生は実は劇で観客が観ている。筋書きが全部できていて、周りは全部セットで、親や近所の人たちは人間ではない。」そこで少年は筋書きにない行動をとるのだが・・・。
この発想の面白さと衝撃!初出時の雑誌でこの作品を読んだ時、ぼくはまだ小学生だったので特にそう思ったのだが、今読んでも面白いと思う。ただ、今の若い人が初めてこれを読んでどう思うだろうか、これに似たような発想の作品を既に知っていてさほどの感銘はないかもしれない。『世にも奇妙な物語』でも似た発想の話があったし。
まあ、赤の他人はどうであれ、ぼくにとってはこれは傑作で名作である。

「ペーター・キュルテンの記録」1973年
ドイツに実在した猟奇連続殺人犯ペーター・キュルテンの実録もの。フィクショナルな話を手がけてきた手塚治虫としては珍しい話。そういえば、山岸凉子も津山30人殺しをモチーフにした実録もの「負の暗示」を描いている。時には、そういうものを描きたくなるものなのか。その辺が興味深い。
ペーター・キュルテンが処刑されたのは1931年。何年かしてドイツに、いや世界にもっとスケールの大きな殺戮と破壊の時代がやって来た。

「料理する女」1972年
医療が発達し癌などが根絶された世界。ただ、認知症だけは治らない。これは高齢者ばかりを集めた精神病院の話。患者は110歳を優に超える者もいる。その病院で起きた患者の連続失踪事件。犯人は、炊事婦で、彼女は老人を殺しては「料理」して食卓に上げていたのだ。この女も老人たちも病院の院長も患者の家族もみんな狂っているというのがこの作品のミソ。作品発表から45年、ますますこの世界に近づいてきた。

(つづく)





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