『この世界の片隅に』 夫婦ってそんなものですか?

アニメ(映画)『この世界の片隅に』

(注意!)ネタバレあり

(つづき)戦時中の所謂「銃後」の生活を描いた映画、ドラマはこれまでも色々あったと思う。アニメでも『火垂るの墓』とか。だから珍しい題材ではないのだが、このアニメ、一味違う。それは、主人公のすず(声:のん)のキャラゆえだろう。平時でさえ夢見がちで「ぼーっ」としている彼女が、戦時下という特殊な状況下にどう生きて行くかが実に細かく描かれている。それが、結婚という事と重なってまたより味わいが出ている。
日常系アニメ、というのが話題になったことがあったが、これは戦時下の日常系アニメなのだ。もっといえば、『サザエさん』戦中版といったところか。すずがドジをして「あちゃ~」となって、周囲の人が呆れ、そして笑うという展開のエピソードがいくつもあって、観ている方の笑いを誘われる。実際、ぼくの観た満員の劇場でも度々笑いが起きていた。もちろん、それは爆笑、ではなく、クスクス程度の笑いなのではあるが。それにしても戦時中を描いてほのぼのアニメになっているのが凄い。そのほのぼのがあるから、後半部の悲劇の連発が生きて来る。極めて緻密に計算された作品であると思う。

すずが呉の港をスケッチしていたら、強面の憲兵が、それを見咎めて家までやって来て、家族の前ですずを高圧的に叱りつけるシーン、他の映画だったら、憲兵の怖さを見せるだけだろうが、ここではオチが笑いに転化されている。これは珍しいし、面白い。

夫婦の機微が細かく描かれているのも上手い。夫婦の初夜のキスシーンが生々しくエロティック。
すずの幼馴染の哲が夫婦の家を訪ねて来た時、すずの夫周作が、哲を母屋ではなく離れで寝るようにと言って、すずにそこに行かせるシーンが怖い。「もう会えないかもしれないから話をしなさい」と口では言うけれど、これって「セックスしていいよ」ということだ。すずが外に出たら母屋の鍵をかけてしまうし。
そのあとのすずと哲の会話からすると二人はセックスしなかったものと思われる。
この件であとですずが珍しく周作に怒りをぶつける。すずの「夫婦ってそんなものですか?」という言葉は周作の意図を見抜いたものと思われる、決してすずはバカではない。
周作は何故そんなことをしたのだろう。すずを強引に嫁にした負い目?すずと哲が仲良く話していることへの嫉妬?二人の気持ちを考慮しての好意?
ま、答えはない。それが人間だ。

短いシーンで描かれて、意外に見落とし、あるいは忘れてしまいがちなのがすずの妊娠の下り。体調に変化があって、「二人分」の食事をするようになったすずを描き、次は産婦人科に行ったすずが描かれ、そのあと「一人分」の食事をするすずが映し出される。セリフでは妊娠なんて一言も出て来ないがこの描写でそれが分かる。そして、結局、妊娠していなかった、あるいは流産だったみたいなことまで分かる。説明なしでそれらのことを分からせるというのはアニメの力だ。
すずは子どもの産めない体になったのだろうか。そう考えると、ラストで戦災孤児を引き取るのとつながって合点がいく。

(つづく)
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