『ナルニア国物語① 魔術師のおい』 滅びの言葉

小説(児童文学)『ナルニア国物語① 魔術師のおい』THE MAGICIAN’S NEPHEW 1955年 イギリス C・S・ルイス著 土屋京子訳 光文社古典新訳文庫 2016年9月20日初版第1刷発行
2016年10月8日(土)読了

(注意)ネタバレあり。

イギリス児童文学の古典的名作。瀬田貞二訳の岩波書店版から50年ぶりの新訳である。小学生の頃から旧訳に親しんだ者として新訳がどんなものか大いに気になり、買って読んでみた。旧訳ももう何十年も読み返していないので非常に新鮮な気持ちで読むことができた。
訳としては読みやすく分かりやすくて、スラスラと読める。作品の中身も面白い。決して古くなっていない。原作が発表されてから61年も経つのに。そして、この作品が後世の作品に与えた影響の大きさを随所で痛感した。

魔術師であるアンドリュー伯父の策略によって異世界に飛ばされた少年ディゴリーと少女ポリーはそこで心ならずも邪悪な女王ジェイディスを復活させてしまい、ロンドンまで連れ帰る羽目になる。ロンドンで騒ぎを起こした女王を元に戻すために再び異世界に旅立ったディゴリーとポリーたちだったが、彼らが辿り着いたのは、女王のいた世界とは別の世界だった。そこでは今まさにライオンのアスランによってナルニア国が創世されようとしているところであった。

異世界ファンタジーとして今読んでもなかなか手が込んでいる。いきなりナルニア国に行くのではなく、まずは女王の世界に行ってしまうのが面白い。女王は姉と戦って国を滅茶苦茶にし、あげくに禁じられていた「滅びの言葉」を発したために自分以外の全ての人間が死に絶えたのだという。この辺りは、滅びの言葉が出て来る『天空の城ラピュタ』に大いに影響を与えているとみた。
女王の冷酷で傲慢で極悪非道なキャラも良く出来ている。実に魅力的な悪役だ。それが現実のロンドンにやって来て暴れるなんてのはコメディとしても面白い。身長が2メートル10センチもあって美人というのも極端な設定だがそれもまた楽しい。『スーサイド・スクワッド』に出てきた魔女なんていうのもこの手の悪役の継承者か。
アンドリュー伯父のキャラも面白い。悪役としては女王よりは格下で卑小でドジでダメでそれでいてずる賢いコメディリリーフ。こういうキャラも色々と真似して使いやすい。著者もこの二人を非常に面白がって描いているように思える。悪は悪なりに生き生きとしている。
その代り、本来主人公であるはずの少年少女、ディゴリーとポリーが些か影が薄い。如何にも児童文学の主人公らしい型通りという感じ。ディゴリー少年なんかは、病気の母親想いの良い子なのだが、良い子って物語の主人公だと面白くない。

後半は、女王があまり登場せず、ライオンのアスランが中心。この辺は、多分にキリスト教色が強くてぼくなんかがあまり立ち入れないところだ。悪役が跋扈する冒険物語と思っていて読んでいたらクライマックスで有難いお説教を聞かされた気分。それでもそれほど教条的にならないのは、アンドリュー伯父を絡ませて笑いに持って行った成果だと思う。
この雄大な物語も何故かラストは後年、アンドリュー伯父が女王を思い出して言うセリフで締められる。

「悪魔のような気性の女でしたがな」と、アンドリュー伯父は話すのだった。「しかし、そりゃあ、いい女でしたぞ。ああ、そりゃもう、いい女でした」
(286ページより引用)

何と児童文学のラストにふさわしくないセリフだ。そこが大いに気に入った。
魔術師のおい ナルニア国物語 1 (古典新訳文庫)
光文社
2016-09-08
C・S・ルイス

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