ハーラン・エリスン『死の鳥』 鞭打たれた者たちの声なき絶叫

小説(短編集)『死の鳥』ハーラン・エリスン著 伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF 2016年8月15日発行
2016年9月17日(土)読了

(注意!)ネタバレあり。

日本で独自に編集された短編集。待望の、と言いたいところだが、些か待たされすぎてどうもいまひとつ気合が入らない。短編全10編。確かにハーラン・エリスンにしか書けないユニークな作品群ではあるが、傑作揃いかと言われれば、否定的にならざるを得ない。取りあえず、個々の作品について何作か気に入ったものの感想を書いておこう。

「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」(1965年)
中学生の時、「SFマガジン」のバックナンバーを集めるのに熱中していたことがあった。1971年ごろ。いまから45年も前だ。その時集めた中の1冊で「1967年2月号」に翻訳されていて読んだ。凄く面白かった記憶がある。
今読むと、所謂管理社会を描いたディストピアもの。強大な力を持ち時間を管理する支配者チクタクマンとそれに抗するアウトサイダー、ハーレクィンの戦いの物語。軽快でユーモラスで凝っていて面白い。まさに映像向きだが、今となっては新鮮味がないか。それでもこれは傑作。皮肉なラストも上手い。

「竜討つものにまぼろしを」
アンブローズ・ビアスの某名作をエリスン流に描いたものか。ただ、ビアスの場合はラスト一行のオチで全てを語っているが、こちらの方はかなり早い段階で主人公が死んでいることが明示される。その辺の違いは面白い。

「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」
これも中学生のころに読んでいたく感動した作品。ちなみに当時の邦題は「声なき絶叫」。今読んでも面白い。確かに、「コンピューターの反乱」という設定はあまりにも手あかが付きすぎて今や陳腐ではあるけれど、それでも今でも読めるのは、どこかこのコンピューターが変態でSM的であるからだろう。何で数人の生存者を残して他の人類を絶滅させたのか。その生存者を何故いたぶり続けるのかよく分からないところが面白い。

「世界の縁にたつ都市をさまよう者」
切り裂きジャックを扱った小説は山ほどあるが、これはその中でももっともユニークなもののひとつであろう。未来世界にタイムトラベルした切り裂きジャックというのは某作にも出て来るが、料理の仕方がだいぶ違う。そこが面白い。ただ、ここに登場する未来人というのがよく理解できない存在なのがちょっと困る。

「死の鳥」
凄まじい実験作。色々なテクニックを使って繰り広げられるエリスン・ワールド。小説の中に実体験を盛り込んだと思しきエッセイが挿入されていたり、何種類もの活字を駆使して文章が構成されていたり、さらにそこに宗教的な要素が散りばめられ、と正直言ってどこが面白いのかサッパリ分からない問題作。

「鞭打たれた犬たちのうめき」
犯罪小説なのかと思って読んでいくと、とんでもないところに着地する異常な作品。大がかりなデウス・エクス・マキナとも捉えられて面白い。

「ジェフティは五つ」
いつまでたっても五歳児のままの少年が作り出した世界とは。
「過去の世界に生きる」人間は今までもよく描かれてきたが、彼の場合はそれとは少し違う。ノスタルジーではない。彼が映画館で観る映画は、ドナルド・ウェストレイクの悪党パーカーをジョン・ヒューストンが監督し、パーカーをハンフリー・ボガートが演じた『死の遊園地』。そんな映画は過去にも今も存在しない、この世界では。この発想が面白い。

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