『シャーリイ・ジャクスン短編集 なんでもない一日』 善意と悪意のゲーム

小説(短編集)『シャーリイ・ジャクスン短編集 なんでもない一日 』シャーリイ・ジャクスン著 市田泉訳 創元推理文庫 2015年10月30日初版
2016年8月16日(火)読了

(注意)ネタバレあり。

短編集。短編小説23編とエッセイ5編収録。どれも面白く読むが、残念ながら名作「くじ」程のインパクトがあるものはない。どうしてもシャーリイ・ジャクスンの短編というと、「くじ」を思い出して比較してしまう。それだけ「くじ」が傑作であることの証しでもあるが。
以下、印象に残った作品について感想を。

「なんでもない日にピーナツを持って」
朝、男は家を出ると、行く先々で会う人会う人にささやかな善行を施していく。子どもにはピーナツを、物乞いにはお金を与え、見知らぬ若い男と若い女をカップルにしたり、女性の荷物を持ったり、子守りをしたりする。
夕方、男が家に戻ると妻は既に戻っている。二人で今日の成果を話す。妻の方は、デパートにいた女性を万引きだと訴えて警備員に捕まえて貰ったり、バスの運転手と喧嘩して、バス会社に苦情を言って運転手を辞めさせるようにしたり、と善行ならぬ悪行をしてきたとのこと。そして明日は役割を交替することになる。
この二人が何故そんなことをしているかは全く明かされない。単なる遊びなのか、何か目的があるのか。どこからか報酬が出る仕事なのか。そういう説明がないのが実にいい。傑作。
何となくオー・ヘンリーの「賢者の贈り物」とエリザベス・テイラーの「蠅取り紙」という作品を思い出した。いずれも奇妙な夫婦の物語。

「悪の可能性」
71歳の老婦人ストレンジワースは、匿名の手紙を近隣の住民に送るのが好き。そこには、住民の人間関係を壊すような邪悪な文章が綴られる。勿論、彼女は正義のつもりなのだが、書かれていることは彼女の想像にすぎず、実は邪悪なのは彼女であって、それによって住民の人間関係に亀裂が入っているのである。
だが、ついにそれが彼女に身に帰って来ることになる。
自分は善人であり正義のために他人を匿名で攻撃することを良しと考える人間。ネット社会になって顕著に目立つようになったが、半世紀前に既にこういう作品が書かれているのだ。人間の醜い部分は変らないということか。
傑作。

「レディとの旅」
9歳の男の子ジョゼフは祖父の家に行くために列車に乗り込む。初めての一人旅だったが、途中で見知らぬ女が、ジョゼフの隣に座って話しかけてくる。その女は、勤め先のお金をに盗んだ罪で指名手配され、逃亡中であったのだ。
犯罪者の女と男の子のちょっといい話。新味はないけれど、二人の会話がいいし、ラストの締めもいい。

「「はい」と一言」
両親を突然の交通事故で亡くした少女ヴィッキー。だが、彼女は全く泣きもしない。彼女には、こんなことが起きることが二か月もまえに分かっていた。彼女には予知能力があるのだ。
予知能力など全く信じようとしない隣人の視点から描かれた話。なかなか面白い。ラストは当然こうなるという終わり方。

「スミス夫人の蜜月」(バージョン1)(バージョン2)
過去に何人もの「妻」を殺した疑惑がある男と結婚した新妻の心理を描く。2バージョンあって、両方とも話の流れは同じ。心理が違う。1は、周囲の疑惑の言葉など一切信じないで、夫に付き従って行くという感じ。2は、何故かむしろ夫に早く殺されたいという感じ。その違いが面白い。

「S・B・フェアチャイルドの思い出」
デパートに注文して買ったばかりのテープレコーダーが故障した。その旨を相手に伝え、修理するように物を送るが、一向に返事はない。そのうちに相手側から代金の請求が執拗にやって来るようになり・・・。
訳者は、これをエッセイに分類しているが、何だか小説みたいな話だし、書き方も小説的。いかにもシャーリイ・ジャクスンらしいダークなユーモアにあふれた作品。こういういかにも日常的にありそうな単純なトラブルも彼女の手にかかると不条理でどこか不気味な話に仕上がってしまう。
傑作。
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