『一九八四年』 戦争は平和なり 自由は隷従なり 無知は力なり

小説『一九八四年 [新訳版]』NINETEEN EIGHTYーFOUR 1949年 ジョージ・オーウェル著 高橋和久訳 ハヤカワepi文庫 2009年7月25日発行 2014年8月15日21刷
2016年7月25日(月)読了

(注意!)ネタバレ、オチバレあり。

ディストピアものの古典的作品として有名な小説ではあるけれど、いま、2016年に読むと、これが絵空事ではなく、極めて現実的なものとして受け取ることができる。
今の日本がこの小説に登場する国に近づいて来ている、そんな気がする。

オセアニアという国名の国。この国は、ビッグ・ブラザーという指導者の元、一党独裁体制を堅持し、厳しい管理社会を築き、国民を支配している。
世界には、オセアニアの他にユーラシアとイースタシアという超大国があり、この三国のうち、どちらか二国間で常に戦争が絶えない。戦争は終わる気配はない。
主人公ウィンストン・スミスは、オセアニアの真理省記録局に勤務する党員。彼の仕事は、歴史の改竄。例えば、経済見通しだったり、戦果において誤謬が生じた時にそれを党公認の正しいものに書き換える。そうすると、それは元から全く正しいものであり、修正の跡など微塵も残らない。
人間においてもしかり。党にとって不都合と判断された人間は粛清され、全ての記録が抹消され、最初から生まれてもいない非実在の人間となる。また逆に存在しない架空の人間を戦争の英雄に作り上げ、記録に残すこともある。
党にマークされた人間は監視され24時間見張られる。また、家庭においては、子どもたちが密告者となり、親を反逆者として党に差し出すこともある。まさにがんじがらめの体制。

その中で注目すべきは、「憎悪週間」という制度。その期間に公共の場に人々が集まり、国内の売国奴や国外の敵に罵詈雑言を浴びせるイベントである。これなど、いま日本で行われている「ヘイト・スピーチ」に何と似ていることか。ヘイト・スピーチというネーミングもこの小説から取ったのかもしれない。
例えば10年前だったら、このくだりを読んでもよく出来たフィクションとしか思わないが、今読むと非常に身近に感じる。そこが恐ろしい。
ただ、ジョージ・オーウェルはこれを単にシリアスな恐怖として書いているわけではない。肝心要の「憎悪週間」で広場の壇上で雄弁家がヘイト・スピーチを繰り広げて、敵国ユーラシアを罵倒していたのに、突如、党からの通知が届いた。そこには、敵国はイースタシアであり、ユーラシアは同盟国であるというものであった。そして、それは決して変更ではなく、遙か昔から継続していたのだと。ここでも歴史の改竄および現状の書き換えが行われたのだ。しかし、雄弁家は少しも慌てない。彼はただ、罵倒する相手の名前を変えればいいのだから。何事もなく罵倒は続く。このくだりのブラックユーモアのセンスが凄い。

こういうダークなユーモアが随所にある。子どもに党に忠誠を誓うように教育し続けた男が、幼い娘に反逆者として密告されるのだが、それが「俺の教育の成果」だと誇っているとか実に面白い。ちなみに密告のネタは、彼が寝言で「ビッグ・ブラザーをやっつけろ」と言ったというだけ。

党は単に歴史を党公認の正しいものに変えるだけではなく、国民は使用する言語も「ニュー・スピーク」としてどんどん新しく変えて行こうとしている。今まであった多種多様な単語の言い回し、言語の豊かさを削り落とし、語彙を極端に少なくしていく試み。それをすることによって国民の考える力を今よりももっと低下させ、党に隷属させるためである。これも怖い。

生活全般を支配され、管理され、監視されてはいるが、心はまだ大丈夫、自分のものだと主人公は思っているが、その実、記憶には随分欠落がある。最初から党に捏造記憶を刷り込まれているんじゃないだろうか。その辺はハッキリと書かれていないが。
記憶と云えば、ラストの解釈にも関係してくる。あそこは、アンブローズ・ビアスの某作と同じじゃないかと思ったのだが、ちょっと曖昧で今一つ分からない。

ストーリー的には、主人公には体制に叛逆して貰わないと話が持たないのだが、恐るべき管理社会への抵抗がここでは若い女性との恋愛とセックスになっているのが面白い。自由なセックスさえ許されない社会。あくまでも子どもを作るという目的だけでセックスし、快楽を求めることを禁じる社会。それに対する見事なアンチテーゼになっている。国家に対して銃を持って立ち上がれはしないが、セックスはできる。これも考えてみれば実にシニカルなユーモアのセンスがある。
そして勿論、そんなものは呆気なく叩き潰されるのも必然である。

そのあと、正体を現したラスボスとの闘いがこの小説の一番の読みどころである。ここは一度読んだだけでは消化しきれないところでもある。もう少し読み込むこととしておこう。





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