三島由紀夫『暁の寺 豊饒の海・第三巻』を読む

小説『暁の寺 豊饒の海・第三巻』三島由紀夫著 新潮文庫 昭和52年10月30日発行 平成21年11月30日55刷
2016年7月18日(月)読了

(注意!)ネタバレ、オチバレあり。『春の雪』『奔馬』のネタバレもあり。

飯沼勲の自刃から7年、47歳になった本多繁邦は弁護士の仕事でタイにいた。時は昭和16年秋。
本多繁邦はその地においてタイ王室の満7歳になる姫君に出会う。そして、かれは確信する。この姫君ジン・ジャンこそ、20歳で死んだ飯沼勲の生まれ変わりだと。

『春の雪』『奔馬』のおいて、目撃者もしくは観察者であった本多繁邦がこの巻の主人公。年齢的には、これを書いた当時の三島由紀夫と近いので、思い入れがあるのかもしれないが、いかんせん主人公としては、松枝清顕や飯沼勲の強烈な個性に比べるべくもない。物語としても前二作ほどにはドラマ性がない。
その代わりに三島由紀夫による仏教講義があるという感じ。戦時中を舞台にした第一部は、タイとインド訪問から得た感銘によって書かれていると言っていい。
残念ながら、仏教には全く疎いのでここに書かれていることのほとんどがよく分からなかった。三島由紀夫には申し訳ないが非常に退屈だった。非常に熱を込めて書かれているのだが、「物語」とのバランスが悪く、敢えて小説という形にする必要あったのかなとも思う。
重要なキーポイントになるはずのジン・ジャンのキャラも弱い。

第二部は、戦後の話。昭和27年、本多繁邦は58歳になった。オハナシとしては、第一部よりもこちらの方が面白い。
今まで「見る人」であり、「行動する人」ではなかった本多繁邦が、私生活においてももっとも卑俗な意味で「見る人」だったということが明かされる。彼は、公園で若い男女のカップルがセックスしているのを覗き見るのが「趣味」だったのである。前二作で本多繁邦という人物に好感を抱いていたのにアッサリとぶち壊されてしまう失望感と同時に快感もある。
18歳になったジン・ジャンが来日し、本多繁邦や彼の知人女性久松慶子と関わって来るという話の展開になるのだが、少年を描いてあれほど巧みだった三島由紀夫も少女、しかも異国の人だと勝手が違うのか、どうもいまひとつ生きてこない。そのため、ジン・ジャンと久松慶子の女性同士のセックスを本多繁邦が覗いてしまう、という衝撃的であるはずのシーンが取ってつけたようになる。このシーンも含め、クライマックスからラストにかけてはバタバタと急展開があるが、如何にも「終わらせるための」展開であって、前二作にあった内的必然性に欠けている。
45歳のときにこれを書いた三島由紀夫にとって、58歳の本多繁邦の心情とか、本当はどうでもよかったんじゃないだろうか。

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