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zoom RSS 三島由紀夫『奔馬 豊饒の海・第二巻』を読む

<<   作成日時 : 2016/07/17 15:15   >>

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小説『奔馬 豊饒の海・第二巻』三島由紀夫著 新潮文庫 昭和53年8月30日発行 平成17年12月20日53刷
平成28年7月17日(日)読了

(注意!)ネタバレ、オチバレしています。『春の雪 豊饒の海・第一巻』のネタバレもしています。

昭和七年、本多繁邦は三十八歳になった。
というのが、この小説の書きだしの一行である。これは、前作『春の雪』の末尾の一行、

━帰郷して二日のちに、松枝清顕は二十歳で死んだ。
に見事に呼応している。
さすが三島由紀夫、こういう仕掛けも実に巧みで、これで一気に作品世界に入って行ける。

38歳の本多繁邦は、ある偶然(必然?)から飯沼勲という18歳の少年と出会う。少年は、松枝侯爵の書生であった飯沼茂之の息子だった。本多はその少年が、松枝清顕の輪廻転生=生まれ変わりではないかと思い、やがてそれは確信へと変わっていく。
父茂之は、右翼団体のリーダーであり、いわば職業右翼である。息子勲は、その環境にあって、さらに父よりも過激な思想に染まり、やがてそれはテロ計画の実行に繋がる。

この小説の主人公は、この飯沼勲である。『春の雪』が、18歳の少年が一途に追い求めた恋愛の物語であったように、こちらもまた18歳の少年が自分の思想を一途に思い求めた物語である。
二人は全く違った環境下にあり、性格もまるで違うが、一度思いを定めたら、全く妥協せずに突き進むという点では瓜二つである。だから、『春の雪』が松枝清顕の死で終わったように、『奔馬』も飯沼勲の死で終わるしかない。それはもう早い段階から予見できる。予見できるからこそ、非常に面白く読める。

飯沼勲が企てた当初立てたテロ計画は、各所の変電所の爆破、産業界の要人暗殺、日本銀行の占領放火というものだった。現代の右翼からはまるで考えられないが、この時代の右翼は、いわば反体制だったのである。疲弊した農村を尻目に有効な対策を打ち出せぬ政治家ども、私腹を肥やす実業家どもに鉄槌を下すといういかにも正義漢の強い愛国者だったのである。反体制で愛国者だというのが少しも矛盾しない。そのうえで左翼と決定的に違うのは、天皇陛下を崇拝するという点である。
ただ飯沼勲が真剣になればなるほど、このテロ計画が「子どもの遊び」に見えてしまう滑稽さが浮かび上がってくる。十代後半からせいぜい20歳までの学生たちによる遊び。三島由紀夫は決して、こういうテロリストを美化してはいない。むしろ考えの浅い愚か者として描いている。
特にそれは、テロ計画があっさり頓挫してしまうあたりに顕著である。さらに追い打ちをかけて行くのは、このテロ未遂事件の裁判である。そこで純粋極まる飯沼勲に突き付けられた真実と周囲の大人達の思いが明かされる。
飯沼勲に対して大人達はみな、彼を理解し、愛し、赦そうとして来たのだ。そして彼を善導しようとして心を配って来たのだ。これほど、誇りを傷つけられ、屈辱的なことはあろうか。今まで命懸けで取り組んできたことを「若気の至り」で済ましてしまう優しい大人達に飯沼勲は完膚なきまでに敗れたのである。
そこで終わらせないのが如何にも三島由紀夫だ。ラストで三島は、飯沼勲に「死に場所」を与えてやる。この未熟で愚かで純粋で一途な右翼テロリストに一粒の涙を、一輪の百合を捧げたと言えようか。ラストの一行、

正に刀を腹に突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った。
というのは、ハッピーエンド以外の何物でもない。
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