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zoom RSS 三島由紀夫『春の雪 豊饒の海・第一巻』を読む

<<   作成日時 : 2016/07/15 23:24   >>

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小説『春の雪 豊饒の海・第一巻』 三島由紀夫著 新潮文庫 平成24年6月20日78刷
2016年7月14日(木)読了

(注意!)ネタバレ、オチバレあり。

三島由紀夫最後の長編『豊饒の海四部作』の第一巻『春の雪』である。
時代は大正元年から三年にかけて。美少年の誉れ高い学習院高等部の松枝清顕(まつがえきよあき)は、松枝侯爵の息子で18歳。彼は、綾倉伯爵の娘で幼馴染の綾倉聡子(あやくらさとこ)20歳との「許されざる恋」に命を賭けて行く。

大正初期の華族社会を題材にしているのがユニーク。華族と云えば、太宰治が『斜陽』で没落した華族を描いていたが、あの小説を激烈に批判していたのが三島由紀夫だった。それを踏まえてこの『春の雪』を読むと、非常に興味深い。太宰治とは違う華族を描くという意気込みが強く感じられる。
かと言って、三島由紀夫は華族を賛美しているわけではまるでない。むしろその逆で批判的に描いているように思える。松枝侯爵、綾倉伯爵の俗物ぶりを揶揄し、華族というものの嘘くささを暴いている。要するに明治維新で新しい時代が来て西洋のモノマネをしたものに過ぎないと。
侯爵家の部屋には、西洋式のベッドが置かれ、そのそばには屏風があり、そこには漢詩が書かれている。何という和洋中のごちゃ混ぜ感か。
侯爵には、当時としては当然だろうが、妾(めかけ)がいた。ただ、所謂「妻妾同居」ではなく、少し離れたところに妾を住まわしている。そこが、新時代のやり方だと思っているところが如何にも俗物。
そんな俗物の息子である松枝清顕は、自分が美しいとはっきりと自覚している美少年で、傲岸不遜で怠惰で優柔不断である。自分が美しいから自分の周りにいる女性はみんな美しくなければいけない、他人から愛されたら冷酷な軽蔑で返す、をモットーにしている大変素晴らしい少年である。
親友である本多繁邦(ほんだしげくに)は、清顕の美しさと比較して自分は醜いと感じたら、清顕の家来になるしかないと信じ、そうならないように努めている。
そのような登場人物の心理が木目細かく書かれている。松枝家の書生であり、清顕の教育係でもある飯沼という男の心理が特に興味深い。偉大なる先代に比べて清顕はいかにも軟弱に写り、嫌悪感を抱いていた飯沼であったが、清顕に弱みを握られ、絶対服従の立場に追いやられる。その屈辱感。だが、その奥にはある種の快感があるというマゾヒズムが匂う。こういう脇役的人物も決して単純な人物造形をしていないところがいい。

話の本筋は、清顕と聡子の恋愛なのだが、これが色々と手が込んでいて面白い。清顕は、ストレートに心の内をさらけ出しことをせず、ことさらに策を弄し、非常に回りくどい恋愛しかできない。18歳という年齢よりももっと幼い恋心が見え隠れする。そして、異常にプライドが高く、思い込みが激しいのも少年らしい。
ある出来事があってから、聡子を遠ざけていた清顕。だが、聡子に皇族との縁談が持ち上がり、それがいよいよ勅許が下りた時に、あえて清顕は聡子に接近し、二人は肉体関係を持つにいたる。
何という天邪鬼か。皇族の許嫁となった女性とセックスするということはまさに不敬であろう。だが、その「絶対の不可能」であり、「禁を犯す」ことに清顕は情熱を燃やす。
右翼と思われがちな三島由紀夫がこういう展開の小説を書いているところが面白い。

やがて聡子は清顕の子を妊娠し、もうどうも隠しきれない事態になり、松枝、綾倉両家の知ることとなる。聡子は妊娠中絶し、仏門に入ることとなり、それを追って会いに行った清顕は会うこともかなわず、肺炎で死ぬという結末を迎える。いかにもメロドラマ風の筋書きではあるのだけど、不思議にお涙頂戴という感じがしない。
ここに至って、清顕も聡子も自分の思いのままに行動しているだけであって、相手を思いやるというような気持ちは微塵も感じられない。あるべき愁嘆場がまるでない。
そこに三島由紀夫の醒めた視線を感じる。

日露戦争で死んだ清顕の叔父たちと違って、清顕は恋愛で死んだ。これもまた人間の理想的死に方だと思う。


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