黒木華を見る1 『重版出来(じゅうはんしゅったい)! 第1話』 若く明るく一生懸命

ドラマ『重版出来! 第1話』原作:松田奈緒子 脚本:野木亜紀子 演出:土井裕泰 出演:黒木華 オダギリジョー 坂口健太郎 荒川良々 濱田マリ 武田梨奈 千葉雅子 最上もが 小日向文世 滝藤賢一 ムロツヨシ 高田純次 安田顕 松重豊 
2016年4月12日(火)放送 TBS

(注意!)ネタバレあり

原作未読。ほとんど予備知識なしで、マンガ編集部を舞台にしたドラマだということくらいしか頭に入れず見た。
ファーストシーン、大きなビルを見上げる若い女性といういかにも古典的なシーンから始まる。彼女は、興都館という出版社に就職するための面接で今、ここに立っている。実に分かりやすい王道的なヒロイン紹介シーン。
彼女の名は、黒沢心(黒木華)。
ビルの一室で面接が始まると、突然モップを持った初老の清掃員が乱入し、心に襲いかかる。とっさに元柔道部員であった心の投げ技が決まる。お見事。
倒れた清掃員に面接官たちが声を掛ける、「社長!お怪我は?」と。実は、この清掃員こそ興都館の社長その人であった。
何とまあ、これも古典的と云うか、マンガチックというか、荒唐無稽というか、大仰な掴みだなあ、と正直呆れる。
このドラマ大丈夫か、と。
ま、ここくらいであとは、割と真っ当なコメディタッチのそこそこ楽しめる人間ドラマになっている。
せっかく社長の奇行で始まったのに、そのあと社長の出番がちょっとしかないのは不思議だが。

興都館に目出度く入社した心は、マンガ編集部に配属され、そこで新人編集者としての仕事がスタートする。
所謂「お仕事ドラマ」と言おうか、あまり一般人に馴染みのない業界の馴染みのない仕事を紹介しつつ、笑いあり、涙ありのドラマに仕立てていくという、まさに王道。
ヒロインの心をとにかく笑顔を絶やさず、明るく爽やかで、楽しく、前向きで、元気で、行動的で、人付き合いがよく、友だちがたくさんいて、会社の人とも上手くやっていて、頭が良く、元柔道選手だけあって体力もあって、マンガを愛していて、マンガ家を尊敬していて、仕事が大好きで、何事にも一生懸命なキャラにしてあるところが気に入った。黒木華、好演。
彼女の家族とか一切出さず、暗い過去とか微塵もないようなところもいい。

オハナシとしては、編集者の仕事を描きながらマンガ家をも描いていく形。思ったよりも出て来るマンガ家に奇人変人タイプがいないことが面白い。その辺で笑いを取りたくなるはずなのに。
編集部の面々も個性的ではあるけれど、それほど突拍子もないキャラはいない。割と常識の範囲内。阪神好きの編集長とかももっと過激に描けるはずなのに。その辺の品良さがイイ。というか、それはヒロインのキャラを目立たたせるための作戦か。荒川良々とか、安田顕とか、いかにもなクセモノ役者も割と演技は抑え気味。

中盤以降はちょっとした事件が起きる。40年のキャリアを誇る大ベテランマンガ家三蔵山先生(小日向文世)のアシスタントが先生に反抗して、職場放棄、どこかへ行ってしまう。さらにその男から先生宛にFAXでネットの掲示板に書かれた悪口雑言が送られてくる。ネットをやらない先生は、そういうのに免疫なく多大なショックを受ける。中でも「デッサンが狂ってきている」という批判は先生を苦しめてしまう。
その後、心が、先生のデッサンが何故狂って来たのかに気付いて、それを治すことを提案する。新入社員が、そんなに簡単に気付くものか、御都合主義だなと一瞬思うが、そこがなかなかよく出来ている。
先生のデッサンの狂いは、実は先生が作品を書くときの姿勢にあったのだ。そこに気付いたのは元柔道選手であった心ならでは、であろう。身体と身体の勝負をする柔道を一生懸命にやって来たからこそ、先生の身体の異変を発見したのだ。ここが非常にいい。単に社長を背負い投げするために元柔道選手という設定にしたわけではないのだ。

先生のピンチに元アシスタントで今はプロのマンガ家である人々が駆けつけるというのも今どき珍しい人情話。でも、ここまでやるのだったら、造反したアシスタント君は詫びを入れるシーンがあっても良かった。そこまでやるとくどくなるし、扱い方も難しいのか、件の彼は一切出てこない。

ドラマでは珍しいなと思ったのは、主人公の出身大学を「日本体育大学」と実在の名前を出していて、同大でロケもしているし、柔道部員もエキストラで出演している。
残念ながら、メインになる出版社およびマンガ家、マンガ作品は全て架空の名前。こっちは実名使えなかったか。クレジット見ると結構色々なマンガ家が協力してはいるのだが。
もっともマンガでは一つだけ実在のマンガのタイトルが挙げられる。心が少女のころ読んで柔道をやるキッカケになったマンガ、小林まことの『柔道部物語』だ。最初の方の面接のシーンでそのタイトルが出る。
それで終わりかと思ったら、エンドクレジットで『柔道部物語』を読む心らしき少女の映像が出て来る。ここが実に良い後味になっている。




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