高室弓生を読む2 『えびす聖子(みこ)』 殺し合いはしない、という思想

マンガ『えびす聖子(みこ)』原作:高橋克彦 作画:高室弓生 潮出版社 2016年5月5日第1刷発行
2016年4月6日(水)読了

(注意!)ネタバレあり。

高橋克彦の原作小説は未読。まっさらな状態で読んだのが功を奏したか、非常に面白かった。
高室弓生のマンガとしては、この前読んだ『縄文物語 わのきなとあぐね』(青林工藝舎)とはまた違った内容であり、面白さである。

本の帯には、「まさにエキサイティング古事記!」とあるが、所謂古事記の忠実なマンガ化だと思うと面食らう。あくまでも古事記に想を得て、自由奔放に空想の翼を広げて作りあげられた独特のファンタジーになっている。いや、ある部分はSFと呼んだ方がいいかもしれない。その辺の話の広げ方が確かにエキサイティングである。

主人公は、イズモの郷(くに)のヒイの里に住む少年シコオ。彼は、カムナビの山に突如出現した「鬼の船」に遭遇したことによって、鬼に選ばれた者としてイナバの郷を目指して旅に出る。途中、タカヒコとタカヒメという、同じく鬼に選ばれた者と仲間になり、三人は助け合いながら、様々な苦難を乗り越えて行く。その先に彼らを待ち受けているものは何か?
実は鬼に選ばれたのは、この三人だけではなく、色々な土地でかなりの数の者が選ばれたのである。彼らは、旅の途中で鬼の「試し」によって脱落していく者も多い。しかし、旅の最大の敵は、実は人間なのである。
自分こそは鬼に選ばれたただ一人の者になろうとして人間同士が戦うというシビアな展開が繰り広げられる。『縄文物語 わのきなとあぐね』の平和なユートピア物語とはかけ離れた血なまぐさい殺伐としたストーリーである。ただ、高室弓生の絵柄は本質的に柔らかく優しいので、その殺伐さが緩和されている。如何様にも暗く陰惨にできそうな話で、実際に内容的にはかなりたくさんの人間が死ぬし、甘くはないのだが、高室弓生は最後まで人間に対して希望を捨てていないので、何というか安心して読める。
シコオたち三人が、何度も「殺し合いはしない」と言うのが非常に印象的。勿論、彼らは戦いを挑まれ、身の危険を感じれば戦うのだが、それでも殺したくないという強い気持ちは伝わって来る。一番悪い奴らが襲いかかって来た時も相手の命を奪うまでせずに深手を負わせてやっつけるにとどめている。
どんなヒーローでも、「殺し合いが好きで好きで」なんて奴はいないだろうが、他人に害をなす悪人を殺すのはやむなし、というのが普通だろう。それに対して、きちんと「殺し合いはしない」とハッキリ何度も言葉に出すこの物語の主人公は斬新で非常に感動的である。そこに高室弓生の強いメッセージを感じる
「殺し合いをしない」といっても、ただ悪に無抵抗で殺されるというのでは全くないし、人間の善良さだけでなく、人間の邪悪さにも目を背けていないところがいい。

そういうテーマは実に真摯ではあるが、普通に少年が活躍する冒険マンガとしても楽しく読める。全体に漂う高室弓生のユーモアのセンスの良さが、この物語を後味良くしている。
クライマックスがやや駆け足になったのが少し残念。もっとこの先が読みたい、という気がしてくる。
是非続編を期待したい。
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