ルイス・ブニュエルを見る1 『昼顔』 衝撃!主婦売春婦、セックス妄想の果ての悲劇

映画『昼顔』1967年 フランス 監督・脚本:ルイス・ブニュエル 脚本:ジャン・クロード・カリエール 原作:ジョゼフ・ケッセル 出演:カトリーヌ・ドヌーブ ジャン・ソレル ミシェル・ピコリ 上映時間100分 カラー 日本語字幕スーパー版(訳・吉田由紀子) 
2016年4月2日(土)北千住ブルースタジオにて鑑賞 16時の回 座席自由席(最前列) 35mmフィルム上映 入場料1000円 

観客はぼくを含めて6人。当然のことながらガラガラの映画館内の最前列に座り、じっくり映画を堪能した。
実は恥ずかしながらこの映画を見るのは生まれて初めて。なのでどんな内容かも知らない、予備知識ほぼゼロで見たから非常に楽しく見ることができた。この映画を初めて見るのが大スクリーンで良かった。しかも最前列で誰にも邪魔されずに若きカトリーヌ・ドヌーブの顔のアップを見られる幸せよ。

冒頭、馬車が走っている。後部の座席には若い男女カップル、どうやら夫婦らしい。やがて人気のないところで馬車はとまり、夫婦は降りる。夫婦の口論。どうやら妻の不感症が原因らしい。夫は妻に罰を与えるため、御者二人に命じて、妻を馬用鞭で叩くかせ、「好きにしていい」と言う。悶える妻。
そこで、冒頭からここまでが妻が見た夢だと分かる。いかにもブニュエルらしい夢と現実の奇妙な混合である。普通の映画だと、もっと分かりやすく、夢から覚めたシーンを説明的に挿入したりするのだが、ブニュエルは敢えてそれほど分かりやすくはしていない。どこまでが夢でどこまでが現実なのか。もしかしたら、この映画全部丸ごと夢なのかもしれない。ラストは、また馬車が走っているシーンで終わるから、すべては一瞬の間に妻が見た夢なのかも。

妻セブリーヌが本当に不感症なのかもよく分からない、ただ、欲求不満でセックス妄想を抱いているのは確かなようだ。冒頭のシーンからするとセブリーヌは、マゾヒストなのだろうか。演じるカトリーヌ・ドヌーブの超絶美しい顔を見ていると、男を支配して狂わせるサディスティックな女王様の方が似合うように思えるが、そこを反対にしたのがこの映画の面白さ。ま、妄想癖のあるマゾヒストセブリーヌも結局男たちを地獄に落とすので同じことではあるが。

セブリーヌは、妄想だけでは飽きたらなくなったか、パリにある娼館で売春婦として働くことになる。娼館と言っても、別にいかがわしい場所にあるのではなく、ごく普通の街中の普通の民家である。室内だって特に淫靡な雰囲気もない。ごく日常的な場所。セブリーヌがそこで働くと決めて女性経営者に会いに行く辺りからの話の流れが実に面白い。娼館が普通の家であるようにセブリーヌも医師の夫がいる普通の主婦、いや普通よりも裕福か。だから、目的はお金ではない。では何故、知らない男たちとセックスしてお金を稼ぐことにしたのか。実はその辺が、ハッキリこうだと分かるわけではない。セックス妄想が高じて夫以外の男とセックスしたくなったのか、不感症を治すために夫以外の男とセックスしたくなったのか、医師の仕事が忙しい夫が不満で夫以外の男とセックスがしたくなったのか、おそらく全部だろう。

娼館にやって来る客の男たちの変態ぶりを描くのが、この映画のギャグパート。今となっては変態度が足らないぞ、という気もするが、この男どもが揃いも揃って厭な奴ばかりに見えてしまうのが非常に面白い。カネで女を買う男に立派な男はいないというのは、まあそれはそうだろう。それにしてもどうしてみんな居丈高で傲慢な奴なのか。東洋人らしき男(日本人という説もアリ)は、傲慢度は低いがその代り性癖が何が何やら分からない変態。あの羽音はいったい何?それでも、セブリーヌによれば、「いちばん感じたセックス」だったようだ。
変態野郎も傲慢野郎もまあその場かぎりだが、一番困るのは、本気になって売春婦を愛したと思い込んでしまう男。こいつが出て来るだけで不穏な雰囲気になって実にいい。そしてお定まりの悲劇へ。

ストーリーだけを取り出せば、よくある通俗的な痴情のもつれの果ての悲劇なのだが、そこに時々夢が混入してくるので何やら独特で異常な世界が構築されている。
ラストもどう解釈するのか。全て夢だったのか。あるいは、全て現実に起きたことだが、セブリーヌはまだ妄想に浸っているのか。馬車とは何なのか。謎は残り、謎は解かれない。そこが素晴らしい。

カトリーヌ・ドヌーブがとにかく素晴らしい。冒頭で鞭で打たれるところも見ていて興奮するが、中盤で夫とその友人によって顔に泥を投げつけられて顔が泥だらけになって汚されるシーンも感動的。これほど美しい女をどんな風に汚してやろうかとワクワクして楽しんでいるブニュエルは本当の変態だ。その楽しさがこちらにも伝わって来る。
傑作。



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