シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』を読む

小説『ずっとお城で暮らしてる』WE HAVE ALWAYS LIVED IN THE CASTLE 1962年 アメリカ シャーリイ・ジャクスン著 市田泉訳 創元推理文庫 2007年8月24日初版 2015年10月9日9版
2015年12月6日(日)読了

(注意!)ネタバレあり。『山荘綺談』のネタバレもあり。

傑作。
ある屋敷で暮らす28歳と18歳の姉妹と彼女たちの伯父。彼らは、6年前にその屋敷で起きた砒素による一家毒殺事件の生き残り。事件当時、姉コンスタンスの方は、犯人と疑われて裁判にもなったが、無罪放免された。伯父ジュリアンは、一命を取り留めたが、毒の後遺症からか、心身に不調をきたしている。
そして物語は、妹メアリ・キャサリン(メリキャット)の一人称で語られて行く。

三人の名字がブラックウッドだということにまずニヤリとさせられた。言わずと知れた怪奇小説の大家アルジャーノン・ブラックウッドを当然ながら思い出させる。あえてこういう名字を登場人物につけたのは、どういう意味があるのだろうか。シャーリイ・ジャクスンの遊びだろうか。こうしておけば、読者はこの小説が怪奇小説だと思って読み始めるのを見越しているのだろうか。で、その上でその期待を外してみせるという意地悪さの発露なのだろうか。
ラストまで読んでも、この小説には超常現象みたいなものは起きない。そういう意味では怪奇小説ではない。
では、過去の毒殺事件を巡るミステリかと思えば、そうでもない。確かにクライマックスにある人物が自ら真犯人だと告白するが、あくまでそれだけで動機などの詳細は分からない。告白の信憑性も分からない。

怪奇小説でもない、ミステリでもない。ではこれは何かといえば、シャーリイ・ジャクスンの小説だ、と言うしかない。

18歳の、少し(いや、かなり)変わった女性の語りで進められるこの物語は、やっぱり『山荘綺談』(1959年)(『たたり』『丘の屋敷』の別邦題あり)で主人公の女性の心理を克明に描いていたのを思い出さずにはいられない。いずれの女性も共通するのは孤独であるということ。その孤独感が読んでいるとひしひしと迫って来る。もっとも二番煎じにならないように色々と変えている。
こちらのメリキャットは、村社会から隔絶しているとはいえ、姉や伯父と同居しているので一応は家族はある。少女のような空想癖もあり、色々な貴金属を自分だけの隠し場所に埋めたりして遊んでいる。何となく性格の歪んでしまったアン・シャーリイみたい。
三人の家族による密やかで穏やかな暮らしが、突然現れた従兄チャールズによって破られるという展開も上手い。チャールズは、メリキャットが忌み嫌う外の世界の代表であり、常識であり、現実である。
二人の対立は、やがてメリキャットによる屋敷の放火に帰結してしまうという皮肉さ。チャールズを追い出すことができない、殺すこともできないなら、いっそすべてを燃やしてしまえと言うメリキャットの発想。自らユートピアを破壊する行為。
屋敷が火に包まれ、さらに暴徒と化した村人たちの略奪が行われるというのは、スペクタキュラーなクライマックス。ポオの『アッシャー家の崩壊』で屋敷が灰燼に帰すシーンを意識しているのだろうか。

村人の何とも言えない気持ち悪さは、『くじ』に繋がるものがある。排他的な村人の暴力的行為というのは、アメリカ映画でも繰り返し描かれてきたものである。

意外なことにここで屋敷は焼け落ちない。まだ辛うじて人が住めるくらいの場所は残った。火事の時に伯父が亡くなったので、姉妹は元のようにそこで暮らしいく。いや、前よりももっと引きこもって、誰も寄せ付けず、二人だけのユートピアで幸福に。
死んではいないが、生きながらに伝説となり、家に憑りついた呪縛霊みたいな感じになって暮らしていくというこのラストが何ともユニーク。ちょうど『山荘綺談』のラストでヒロインが死んで、屋敷に霊として住み続ける(と、ぼくは解釈した)のと正反対。

今読むと、所謂「引きこもり」を描いた小説としても楽しめる。引きこもることの悦びと幸福、他人と交わらないことの素晴らしさ。そして、悲しさ。
邦題に「お城」とあり、原題にも「CASTLE」とあるのだが、中で描かれるのは決してお城ではなく、大きな屋敷に過ぎない。それでもそれをお城と思いたい18歳の女性の穏やかな狂気が良く出たタイトルだと思う。



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