山田太一を読む1 『空也上人がいた』 老後の愉しみ

小説『空也上人がいた』山田太一著 朝日新聞出版 2011年4月30日第1刷発行
2015年6月8日(月)読了

(注意!)ネタバレあり

27歳の中津草介は、特別養護老人ホームでヘルパーとして働いていたが、ある日、廊下で躓いて押していた車椅子のおばあさんは外に投げ出されてしまう。外傷はなかったようだが、おばあさんは6日後に死ぬ。そのことに責任を感じて草介は特養を辞める。
そんな草介に知り合いのケア・マネージャーである47歳の女性・重光雅美に紹介されて、81歳の独り暮らしの老人・吉崎征次郎の在宅介護をすることになる。

山田太一は、81歳の老人と27歳の若者の心温まる交流、なんぞをストレートに書くような作家ではない。どこか意地悪で毒がある。ここからの展開もちょっと他の作家では見られない特異で歪んだものになって行く。そこが実に面白い。山田太一の面目躍如と言ったところか。

吉崎の指示(というか命令)で、草介は京都に行き、六波羅蜜寺(ろくはらみつじ)にある木彫りの空也上人像を見ることになる。しゃがみこんだ位置から見た空也上人の眼が光っている。草介は感動とともに吉崎への反発を覚える。
この辺を読んでいると、宗教的な悟りとかの話になるのかな、と思う。老人が辿り着いた聖なる境地みたいな話。ところが、セイはセイでも聖ではなく性、セックスの方に話が進んでいくから油断ならない。
吉崎は、草介と重光の二人に「結婚したら自分の遺産を譲る」と言い出す。二人に拒否されると、「1回だけでいいから自分の目の前で二人でセックスしてくれ」とさらに突拍子もないことを持ち出す。もちろん。二人はこれも拒否するのだが。

この吉崎という81歳の老人のキャラが非常に特異で面白い。本音としては、47歳の重光に恋焦がれてセックスしたいくらいなのだが、81歳の今ではどうにもならない。それでせめて27歳の草介と重光のセックスが見たい、という望みなのか。あるいは、わざとそんなことを言って、拒否されることによって重光と草介が恋仲にならないように仕向けたのか。
この小説は、草介の一人称で語られているので、吉崎の心理はその言動から推し量るしかない。吉崎が告白する過去の交通事故の話も本当かどうかは分からない。山田太一はそれをハッキリとは書いていない。ただ、重光がその事故の関係者だと嘘をつくくだりをわざわざ入れているのは、吉崎も嘘をついているのかもしれないと思わせる効果がある。

吉崎は自殺する。これも意外な展開。若者との出会いによって、老人が生きる希望を見出す、みたいな甘い話ではないのだ。山田太一は恐ろしい。
吉崎の遺書を読んでも理路整然としすぎていて逆に理解を拒むところがある。結局、吉崎の真意というものは最期まで謎だ。
ただ吉崎が望んだことの一つは図らずも実現する。通夜が行われた夜、吉崎の棺の前で47歳の女・重光と27歳の男・草介はセックスする。このとき、重光が処女だったことも明かされる。
感動的なシーンのようにも思えるし、何だかグロテスクなシーンのようにも思える。
孤独な老人の話が、中年女と若い男のセックスで終わるというこのアヴァンギャルドな超展開。

冒頭とラストに草介の見た夢の話を配置している。冒頭の夢はどこか禍々しいが、ラストの夢はどこかに希望らしきものがある。これがあるから何となく救われる感じがある。

印象的なシーン。公園に母と幼い娘の二人連れ。公園には赤と白のツツジがたくさん咲いている。女の子は、そのツツジを引き抜いて母親に渡す。それがだんだんエスカレートする。どんどん花をむしり取っていくのに何のためらいもない。母親はその様子を微笑みながら見て、花をどんどん袋に入れていく。それを喜んで見ている吉崎。戸惑い、怒りを覚え、やがてその喜びを理解するが同時に吉崎への嫌悪感を抱く草介。実に鮮やかなシーン。人間が生きるとはどういうことか、を見せている。
空也上人がいた 朝日新聞出版特別書き下ろし作品
朝日新聞出版
2012-08-01
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