前田敦子を見る1 『イニシエーション・ラブ』 騙される快楽に身を委ねて

映画『イニシエーション・ラブ』2015年 日本 配給:東宝 原作:乾くるみ 監督:堤幸彦 脚本:井上テテ 出演:松田翔太 前田敦子 木村文乃 森田甘露 三浦貴大 山西惇 木梨寛武 手塚里美 片岡鶴太郎 上映時間110分 2015年5月23日(土)公開
2015年5月30日(土)鑑賞 TOHOシネマズ西新井スクリーン4 15時の回 座席B-13 入場料(当日券)1800円 パンフレット720円

(注意!)この映画のネタバレ、オチバレをかなりおこなっておりますので、映画を見ていない方は、以下の文章を絶対にお読みにならないことをお願いいたします。『エル・スール』『猿の惑星』のネタバレもありますので、そちらも未見の方はご注意下さい。

原作小説未読、映画に関しても映画館で予告編を見たきり。予備知識としては、前田敦子主演の恋愛映画、ラスト5分に何やら仕掛けがあるらしいということのみ。映画に対峙するには非常に理想的な状態である。この映画に限らずだが、ぼくは映画を見る前は、あらすじ、感想、批評の類を書いたものは一切見ないようにしている。だって楽しめないじゃない。それに人の意見を事前に頭に入れて見るって何だか悔しい。絶賛ならまだしも欠点を指摘したものを事前に読んだりしたら、何だかその人の影響をもろに受けそうで嫌だ。

予告編でも強調していた「最後の5分で全てが覆る」という仕掛けだが、ぼくはまったく見抜けなかった。まんまと騙されてしまった。何という幸福か。
この映画に関するツイートで「オレはオチを見抜いたぞ」と自慢するもの、「オチが見抜けなくて悔しい」というものが散見されるが、その気持ちが全く理解できない。ぼくは途中でオチが分かったら、腹立つよ。「下手くそ」と思って。どうしてもっとうまく騙してくれないのかと。

まさか夢オチじゃないだろうね、とか、映画の途中でアインシュタインの本が出て来たからSF的落ちでパラレルワールドかな、とかいろいろ考えたのだが、ラストまで見て、「ああ、こう来たか」と感心してしまった。

この特殊な仕掛けにまんまと騙されたというのは、要するのぼくが映画に囚われているせいなんだろう。現実じゃ有りえないけど、映画じゃ有りえるとついつい思い込んでしまう。
あんな太った男が一念発起したからと言って半年ぐらいで松田翔太になるなんて現実では絶対にない。ところが映画として見ると有りになってしまう。色々と余計なことを加味してぼくの脳内で納得してしまう。
「太った男から松田翔太に変わることでギャップを狙ったな」とか思ってしまう。監督が堤幸彦だということも大きい。「堤幸彦のいつもの奇をてらったギミックだな」と思ってしまう。まさか太った男と松田翔太が別人だとも夢にも思わなかった。
いや、一度だけ、松田翔太が「大学では物理をやった」というところで、「あれっ」とは思った。前半部では、「数学」だったんじゃ。あそこで別人と気づいても良かったが、気づかず、見事に騙されたままだった。

テロップの不自然さも気づくべきだったな。「なんでこんな恋愛映画に何月何日って一々テロップ入れるかな」とふと疑問には思ったが、それ以上は頭が回らず。堤幸彦らしい変なやり方だなと片付けてしまった。
考えてみると、ぼくは堤幸彦に非常に信頼を置いているようだ。とにかく不自然なこと、変なことは堤幸彦だから当然。いつもそんなことやっているんだから、と。
この映画最大のトリックは、実は堤幸彦が監督をやっているということ。どちらかというと、堤幸彦を侮っていたぼくのような者こそが一番そのトリックに引っかかりやすい。ヤラレタ。

『猿の惑星』を見て「猿が英語をしゃべっている時点でオチが分かった」と自慢している人がいたが、「よっぽどハリウッド映画を見ていない人なんだなあ」と感心するばかり。ハリウッド映画では、猿どころかドイツ人もジャン・ヴァルジャンもナポレオンもモーツァルトも英語しゃべっているぞ。つまりあの映画は、ハリウッド映画ずれをした人を騙すためのもの。
この映画は、堤幸彦ずれをした人を騙すためのもの。

太った男がスポーツシューズで走っている、その足元のアップ。次のシーンでは、痩せた足元のアップ、同じスポーツシューズ。カメラが引くとそれが松田翔太だと分かる。これじゃあ、どう見ても同一人物として見ろ、という文法に則っているようである。
このシーンを見て即座にビクトル・エリセの『エル・スール』のあの素晴らしいシーンを思い出した。
少女が自転車に乗って家を出た。次のシーン、同じ自転車に乗って帰ってきた少女は体も大きくなっていた。ここで数年の時が過ぎたことを何のテロップも使わず表現しているのである。何の説明もなしにこの二人の少女が同一人物であると分からせてしまう神業。もちろん、べつの俳優が演じているのではあるのだが、誰も別人とは思わない。それが映画のお約束だから。
そうか、この映画がビクトル・エリセに捧げた映画だったのか。(つづく)
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