ヴィクトル・ユゴーを読む2 『レ・ミゼラブル 第2巻』 第二部コゼット

小説『レ・ミゼラブル 第2巻』1862年 フランス ヴィクトル・ユゴー著 佐藤朔訳 新潮文庫 1967年6月30日発行 2013年3月25日56刷
2015年5月5日(火)読了

(注意!)ネタバレあり

第一部のラストで無実の人間を助けるため、自分の正体を法廷で明らかにしたジャン・ヴァルジャンは再び逃亡の旅へ、という最高に盛り上がるところで終わったので、さてその続きや如何にと思いながら読んだのだが、ヴィクトル・ユゴー、どうにも人が悪い。第二部コゼットが始まっても一向にジャン・ヴァルジャンもコゼットも出て来ない。その代りに書かれているのは、ナポレオンによるワーテルローの戦いの顛末。どう考えてもこれまでのストーリーに関連性がない。時代も遡っている。それが、第一章ワーテルローと銘打って105ページも続くのだ。
第一部第一章でも司教の話に100ページ費やしたことを思い出す。どうもヴィクトル・ユゴーはこういう寄り道的部分に厭に力を入れて書く傾向がある。
そもそも1815年のワーテルローの戦いの時、ユゴーは13歳だった。当然ながら戦場を直接知っているわけではない。資料や証言を基に46年後にこれを書いたのである。その割に臨場感があるのは、彼の作家的才能のなせる業か。
この第一章のラストにやっとこの小説の登場人物が登場する。後にコゼットの強欲で悪辣な養父となるテナルディエである。彼はここでも小悪党ぶりを発揮している。戦場で倒れた兵士の死体から金目の物を奪い取るという火事場泥棒ならぬ戦場泥棒。なるほど、当時はこういう奴がいたのか。面白い。もっとも小説だからこの辺を全て信じてしまうのはどうかと思う。真偽はともかく小説として面白い、でいい。

第二章でやっと満を持したという感じでジャン・ヴァルジャン登場。第一部のラストで逃亡したのにここではまた捕まって投獄されている。だが、戦艦で強制労働している最中に人助けして逃亡という運びになる。この時、55歳という設定だが、何というタフさ。第一部で短時間に白髪になってしまった(なんというお約束の展開か)が、見かけは老人でもその超人的体力および精神力は衰えていない。
こういう前ふりがあるので、以後、ジャン・ヴァルジャンがいかなる危機的状況にあってもきっと切り抜けられると読者は確信してしまう。いかにも主人公にふさわしい超人設定である。

一方で強欲で悪辣な養父母に虐待され、過酷な労働を強いられている8歳のコゼットの姿が描かれる。こちらはこれでもかとばかりにその不幸が強調される。ユゴーの描写は極端である。とにかくある部分は力を込めて執拗に描く。で、当然ながら哀れなコゼットに読者は同情する。そこへジャン・ヴァルジャンが現れて見事助け出すという段取り。そのあたりの胸のすく展開。コゼットを苛め抜いたのもこのカタルシスをもたらすためか。ユゴー、上手い。
だが、主人公が何の問題もなく障害物を乗り越えるのでは面白くない。そこでユゴーは色々な仕掛けを用意する。その最たるものが、ジャヴェール警部である。敵役としてこのくらい大きな存在を持ってこないと主人公と釣り合いが取れない。そのバランス感覚がうまい。この第二部でもジャヴェールもまた超人的ともいえる執念と行動力でジャン・ヴァルジャンを追い詰める。だが、あと一歩の所で取り逃がす。これもお約束なのだが、そのお約束が実に嬉しく感じられる。

ジャン・ヴァルジャンとコゼットが最後に逃げ込んだのは修道院で、そこには昔馴染みの老人がいたというのもご都合主義的ではあるが、それも又良し。ただ良くないのは、その後にまた寄り道してその修道院の歴史、そこでの修道女たちの生活などを詳細に語り出すとドラマが止まってしまって説明と演説が始まってしまう。
しかもその修道院の「ベルナール・ベネディクト修道会」には、(訳注 ユゴーの作り話)とある。(332ページ)え~、作り話なの?ここで書かれている修道院の様子や修道女も作り話?どの辺まで?と思ってしまう。
ま、先にも書いたけど小説に書かれていることを全て鵜呑みにするのはよくないということ。特にユゴーのように巧みに虚実を混ぜ合わせて話を作る作家についてはそのことを頭に入れておく必要がある。
結局、面白けりゃ何でもいいんだ。面白いという点では抜群である。

話としてはそんなに捻りはないが、クライマックスの棺を巡る紆余曲折は手が込んでいて一番面白い。ここではジャン・ヴァルジャンが昔馴染みの老人に助けられるという展開でさしもの超人も形無し。棺の中に入って運ばれて危険を脱するというアイデア、黒澤明の『用心棒』に影響を与えたか、偶然か。

次は第3巻、ジャン・ヴァルジャンとコゼットはどうなるか?

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