ブッツァーティを読む1 『神を見た犬』 ふしぎなポケット

小説(短編集)『神を見た犬』ディーノ・ブッツァーティ著 関口英子訳 光文社古典新訳文庫 2007年4月20日初版第1刷発行
2015年3月28日(土)読了

(注意!)ネタバレあり。

イタリアの作家ディーノ・ブッツァーティの短編集。22編収録。正直言って玉石混交。というか、結構宗教絡みの話が多く、それらの作品の面白さが今一つ理解できない。キリスト教徒ではないぼくとしては隔靴掻痒の感が強い。
取りあえず、読んでみて面白かったものについて感想を書いておこう。

「コロンブレ」
生涯にわたって男の心を悩まし続けたコロンブレという名の謎の鮫。男はその鮫から逃れ続けてきたが、遂に人生の終わりにコロンブレと対峙することになる。ところが意外なことに・・・。
不幸を招くと恐れ続けたものの正体とその意図を知ってみれば、思っていたのと全く正反対であったという寓話。後悔先に立たず。もっと早くにそれを見極めていれば人生も違っていたのに。苦い結末であると同時にこういう風にしか生きられなかった人間というものについてのある種の諦観もある。

「アインシュタインとの約束」
重大な研究をしている最中のアインシュタインの前に死神が現れ、魂を貰うと言い放つ。アインシュタインは研究が終わるまで待ってくれと頼みこむのだが・・・。
死神の本当の目的が明かされるラストが上手い。オチの効いたショートショート。

「七階」
些細な病気のため、七階建ての病棟のある病院に入院した男の話。その病棟は、病状の軽重によって入れられる階が決まる。一番上の七階は、一番病状の軽い患者が入れられ、以下の階は下へ行くほど重症の患者が入れられている。そして1階はもはや助かる見込みのない患者しかいない。
その病棟で男が体験した恐るべき事態とは・・・。
ま、設定を読めば、この男がどんどん下の階に降ろされていくストーリー展開なのだろうとは想像がつくし、その通り進展する。ただ、上手いのは男が取り立てて病状が悪化していないようなのに事務的な手違いなどでどんどん降ろされていくこと。この不条理さが怖い。
ぼくも2か月入院経験があるが、途中で何故か病室を移されたことがある。病院側の色々な事情なんだろうが、やっと慣れた病室を変えるというのはただでさえ心が弱っている患者には結構響くものがある。だからこれは、不条理な幻想小説ではなく極めて現実的な恐怖譚として面白く読んだ。傑作。

「神を見た犬」
ある村のはずれの古い礼拝堂に住み着いた隠修士の老人が死んだ。その後、村に1匹の犬がやってくるようになる。どうやらそれが死んだ隠修士が連れていた犬らしい。村人の間では、その犬が隠修士と共に神の奇跡を見てきた犬に違いないという噂が広まる。それからというもの、村人たちは犬を怖れ、神を恐れて生きるようになって行くのだが・・・。
話も面白いし、オチも上手いのだが、こういう宗教とか信仰の話となるとどうもいまひとつピンと来ないところがある。この本の中にもそういうのがいくつもある。これはなかでは一番わかりやすいほうだ。

「呪われた背広」
男が新しく仕立てた背広。その背広のポケットからは次から次へと紙幣が出てくる。男は狂喜するのだが、やがてその金が他の人間の犯罪などによって生み出された悪魔の金であることに気付く。
まどみちお作詞の『ふしぎなポケット』という童謡を思い出した。あれはビスケットだけどこっちはお金。こっちの方がイイが当然ながらしっぺ返しがある。所謂、「悪魔との契約」もののパターン。

「一九八〇年の教訓」
ある日突然、ソビエトの最高指導者が死亡した。その1週間後、アメリカの大統領が死んだ。それからも1週間に一人、世界の指導者クラスの人間が死んで行くという事態が続いていく。やがて世界中から指導者、権力者、独裁者といった人間たちがいなくなり、そのかわりにその座に就こうという命知らずもいなくなり、世界は平和になりましたという話。
いかにも米ソ冷戦時代に書かれたシニカルで皮肉なユーモアに満ちた作品。アイデアが面白い。
ただ、今の時点で考えると全ての権力者がいなくなれば、単なる無秩序な殺伐とした争いの世界になるだけなんじゃないの、と思えてならない。

「戦艦《死》トート」
大戦末期、ドイツが起死回生を図って作り上げた巨大戦艦の話。いかにも現実にもありそうな話だが、結末は幻想小説的。とてもユニークで面白い。ドイツの話をイタリアの作家が書いたというのも何だか意味ありげ。三国同盟のよしみかしら、。
敗色濃厚な時期に出航する巨大戦艦というのは、どうしてもわが日本の戦艦大和を思わずにはいられない。作者の頭に大和もあったのだろうか。これまた三国同盟のよしみか。
戦争秘話とか架空戦記のようでいて実はまるで違う不思議な読後感を残す。これ、映画で見たい気もする。
傑作。
神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)
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