エドガー・アラン・ポーを読む1 『大渦巻への落下・灯台』

小説(短編集)『大渦巻への落下・灯台 ポー短編集Ⅲ SF&ファンタジー編』エドガー・アラン・ポー著 巽孝之訳 新潮文庫 2015年3月1日発行
2015年3月7日(土)読了

(注意)ネタバレあります、御用心。

「大渦巻への落下」1841年
子供のころから何度となく読んだ作品。久々に読む。子供向きにリライトされたのではない大人向きに訳された従来のものはどうも古色蒼然として実に読み辛いという印象があった。如何に19世紀に書かれた小説ではあっても読むのは21世紀に生きるぼくだから・・・。
その点、この訳文は読みやすく分かりやすかった。さして学もないであろうノルウェイの漁師の体験談が主なのだからそんなに小難しい筈はないのだ。このくらいの方が、大渦巻に呑込まれる過程で主人公が感じた様々な心の動きがこちらにもより強く伝わってくるというものだ。そして、この大渦巻のメカニズムもより分かりやすくなっている。今回再読する前は、これがSF&ファンタジー編に入っているのを奇異に感じたが、本編を読んで、訳者解説を読むと、成る程と腑に落ちた。まさか地球空洞説にまで繋がるとは!
主人公が、この恐るべき大渦巻に遭遇して、神への畏敬と共に、並々ならぬ好奇心が湧き上ってくるところが何度読んでも素晴らしい。

「使い切った男」1839年
インディアンとの壮絶な戦いにおいて、体の様々な部分を損傷した男ジョン・A・B・C・スミス。だが、彼は科学と医学のお蔭でその欠損部分を修復して新しい体に生まれ変わったのだ。
遙か後年のドルトン・トランボ『ジョニーは戦場へ行った』(1939年)を先取りしたようなテーマでしかもダークでシニカルな笑いに満ちた作品。ポーというとどうしても幻想と怪奇のオドロオドロしい作家と思われがちだが、あくまでもそれは一面に過ぎない。こういうユーモアのセンスもまた抜群である。

「タール博士とフェザー教授の療法」1845年
これもダークなユーモアに満ちた作品。精神病院を舞台にしたシニカルなコメディ。精神病院の患者たちが氾濫を起こし、病院の管理者たちを地下に閉じ込め、自分たちがそれにとって代わるという話。事情を知らない部外者がやってきて見たのはまさに常軌を逸した乱痴気騒ぎ。
精神病院の患者が病院を乗っ取るという話は、後年、色々真似されたがおそらくこれがオリジナルだろう。そこまで露骨に真似したわけではないが、精神病院を舞台にした『カリガリ博士』『ドグラ・マグラ』『マラー/サド』『カッコーの巣の上で』などに多大な影響を及ぼしたと思われる。
タイトルにあるタール博士もフェザー教授も存在せず、患者の妄想らしいというオチも面白い。

「メルツェルのチェス・プレイヤー」1836年
実在したメルツェルのチェス・プレーヤーという謎の自動人形の正体を完膚なきまでに暴いたノンフィクション。SFと言ってもいいし、ミステリでもある。鋭い観察眼と洞察力で極めて理詰めに追及していく過程が実に面白い。
こういうのを読むとポーは実に頭脳明晰な人物であることが分かる。そして、こういうものへの好奇心が非常に旺盛であることも。もっとアカデミックな人は頭からこういうのを相手にしないだろう。それに対してポーは実に楽しそうに推理を繰り広げていく。そこがいい。

「メロンタ・タウタ」1849年
2848年の未来を舞台にした作品。これは面白さが分からなかった。訳注や解説によると相当にパロディ、ジョークがいっぱい仕込まれているようだが、元ネタが分からない者にはサッパリである。こういう作品の難しいところである。

「アルンハイムの地所」1847年
膨大な遺産を相続した男が考えたお金に使い道、それは広大な土地に人工庭園を造ることだった。
話としてはそれだけで、展開などはない。あとはただただ、その人口庭園の描写があるのみ。どれだけ想像力を広げられるかの実験の様だ。人工庭園という発想自体は後年への影響大だが、今一つぼくは興味が持てなかった。

「灯台」
文庫本のページで僅か4ページの未完成の遺稿。確かにこの後、何が起きるのか知りたくなる話ではある。続きを書きたくなる人の気持ちも分かる。
大渦巻への落下・灯台: ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)
新潮社
2015-02-28
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