フィリップ・K・ディックを読む1『まだ人間じゃない』

SF(短編集)『まだ人間じゃない』フィリップ・K・ディック著 浅倉久志・他訳 ハヤカワ文庫
2015年2月16日(月)読了

(注意!)ネタバレあり。

短編集。短編8編収録。以下、簡単に感想文。

「フヌールとの戦い」1969年
巻末のディック自身による作品メモに「ここでふたたびわれわれは侵略を受ける。しかも、屈辱的なのは、侵略者が間抜けであることだ。」とある。まさに間抜けな侵略者ではあるが、それゆえに怖いというブラック・ユーモアが効いている。最初、60cmの背丈であった彼らは、地球のタバコを吸うと2倍の大きさになり、スコッチを飲むとまた大きくなり、さらに女性に出会うともっと大きくなっていく。不思議な発想で実に面白い。

「最後の支配者」1954年
世界中でアナーキストが蜂起して、ありとあらゆる政府が潰されてしまった。それから200年、人々は政府なしで生活を営んでいたが、まだ旧政府の残党が何処かに潜んでいるという噂があった。
ディストピアなのかユートピアなのか。政府がなく、軍隊がなく、核爆弾がない世界。人々は穏やかに暮らしているふうではあるが、現実だともっと大変な事態になっているはず。大きな政府がなくなっても統治機関がやはり必要だと思うのだが。
旧政府の残党がロボットの指導者によって支配されているのも皮肉な話。

「干渉する者」1954年
時航機(タイムマシン)で100年先の未来に行ってみると人類は死滅していた。その原因は、知性を持ち攻撃性に富んだ蝶の群れだった。命からがら蝶の襲撃から逃げ出し、現代に戻った男が目にしたのは時航機の屋根のいたるところにこびりついている蝶の繭だった。しかもその繭は全て空っぽになっている。かくして蝶は現代に放たれた。
レイ・ブラッドベリの作品に過去に行って蝶を踏みつぶしたら、それが原因なのか現代の事象が変わっていたというのがあった。その逆で未来からの蝶と云うのが面白い。
未来から持ってきてしまった蝶が現代で繁殖して人類を死滅させるのなら、そもそもこの新種の蝶はいつ生まれたものなのか。これはタイム・パラドックスだ。

「運のないゲーム」1964年
これも異星人による侵略もの。異星人はサーカス団となって人々の前に現れ、ゲームをやることによって危険なものを持ち込むことに成功する。やがて第二のサーカス団がやってきて、前の危険なものを退治できると人々に告げ、またもゲームに誘う。
いかにもディックらしい皮肉で手の込んだ話。

「CM地獄」1954年
いたるところにCMが氾濫する未来社会の姿から現代を風刺したものかな、と最初は思うのだが、途中から奇怪なロボットが登場すると話は思わぬ方向に。
ディックによると読者の不評を買った作品と言うことだが、この意表を突く救いのない作品は結構面白い。

「かけがえのない人造物」1964年
ディックお得意の仮想現実もの。自分に見えている世界は本当のものなのか。自分が撫でているこの仔猫は本当に生きてそこにいるのか。
何が本当で何が偽物か、というのはディックが終生追い求めたテーマ。またかと思わないでもないが、これがディックなんだからしょうがない。それが面白い。

「小さな町」1954年
うだつのあがらない小市民というべき男が、唯一熱中していたのがミニチュアによる小さな町づくり。やがてそれが完成した時、男の姿は消えうせる。普通だとこの男が現実逃避してこの小さな町の住人になったというオチなのだが、もうひとひねりある。今まであった現実の町はなくなり、彼の作った小さな町が現実となったのだ。現実逃避でなく現実の改変に成功したのだ。この発想が面白い。

「まだ人間じゃない」1974年
親が見放した12歳未満の子供は、堕胎トラックに載せられ、堕胎施設で生後堕胎される社会を描いたディストピアものの傑作。12歳未満はまだ魂がないので人間じゃない。人権も生存権もない。犬や猫同様、施設に送られ、引き取り手がない限り、殺処分の運命なのだ。荒唐無稽な話と一蹴できないリアリティーがあって怖いし、面白い。
殺処分こそないけれど親が育児放棄した子供が施設に送られるのは現実でもよく聞く話。それがエスカレートしたのがこの世界だ。「魂がない」というのを論拠にしてしまうのがいかにもありそう。あと「高等数学」ができることを線引きの要素にしているのとか。

この短編集、ハズレがなくてどれも面白く読んだ。もっとディックを読まねば。


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