『日本文学100年の名作 第1巻 夢見る部屋』 阿片中毒者の小さな王国

短編集(アンソロジー)『日本文学100年の名作 第1巻1914-1923 夢見る部屋』池内紀(おさむ) 川本三郎 松田哲夫編 新潮文庫 2014年9月1日発行
2015年1月1日(木)読了

(注意!)ネタバレあります。

新潮文庫100年記念出版
数々の名作を読んできた編者が選び抜いた100年の名作を全10巻で、
中短編アンソロジー全集。第1弾。
(帯のキャッチ・コピーより)

第一次世界大戦が勃発し、関東大震災が発生━。
激動の10年間に何が書かれていたのか。
(裏表紙のキャッチ・コピーより)

第1巻は、1914年から1923年に発表された作品の中から11編を選んで収録。元号で言えば、大正時代の作品。有名であり何度も読んだことがある作品から全く知らない作品まで、リアリズム小説から幻想小説・怪奇小説・探偵小説まで実にヴァラエティに富んだラインナップ。ハズレが少ないアンソロジーで面白く読んだ。
個々の作品について感想を書いておく。

「父親」(1915年・大正4年)荒畑寒村
作品的にはさほど優れたものとは思えないが、この時代を知る上では非常に興味深い作品。老いた父が、かつて社会主義運動に走り投獄されたことのある息子を訪ねて転居先の吉祥寺にやってくる、というだけの話なのだが、今読むとディテールが面白い。何しろ、吉祥寺が寂びれた田舎町なのだから。それ以外にも実際の地名がどんどん出てくるリアルさがいい。老人が、過去の時代を懐かしむのではなく、日進月歩に発展していく東京を賛美しているのも面白い。後の時代の都会批判とはまるで違う。まだ未来への夢があった時代。
★★★

「寒山拾得」(1916年・大正5年)森鴎外
これは何が面白いのか分からなかった。


「指紋」(1918年・大正7年)佐藤春夫
探偵小説でもあり幻想小説でもあり怪奇小説でもあり、映画にオマージュを捧げた小説でもあるユニークな作品。海外に渡航して生活するうちに阿片中毒者になって日本に帰国した男、という人物設定が興味を惹く。彼が
長崎の阿片窟で遭遇した殺人とその死体、さらにその犯人についてのちょっと非現実的な話。
死体の持ち物についていた指紋と全く同じものを浅草で見た活動写真(映画)に登場するアメリカ人俳優の手のクローズアップに発見する、というのが何とも荒唐無稽で面白い。つまり長崎の殺人者はアメリカで俳優になっていたということなのだ。
阿片中毒者の妄想ともとれるが、根拠になるのが、指紋というところが現実的。既にこの時代にこの世に同じ指紋は二つない、というのを踏まえているのが探偵小説的にとても面白い。
もっとも、その俳優の名前がウィリアム・ウィルソンだという「遊び」を見ると、どうもポーを相当意識して真似ている感もある。
さらに興味深いのは、大正7年にもうこんなに活動写真(映画)が日本人に愛されていたんだなあ、ということ。
この小説に出てくる映画『女賊ロザリオ』って実在するのだろうか。

彼は活動写真を芸術の最も新しい立派な一様式だ、そうして科学が芸術に向って直接寄与した唯一のものである、それは白日夢の喜びを最も確実に実現した、一個の別世界をわれわれの前に啓示し、開展した、と断言した。それはヴァルガアな、グロテスクな、またファンタスティクな、現代の人々のみが知る美だ、と説いた。
(「指紋」より引用)
★★★★

「小さな王国」(1918年・大正7年)谷崎潤一郎
大谷崎初期の傑作。G県(どう見ても群馬県)M市(前橋市?)の尋常小学校5年のクラスに転校してきた一人の生徒が次第に特異なカリスマ性を発揮してクラス全員を支配し、服従させ、やがて一つの秩序ある「国家」を作り上げていくという、学園ホラーの先駆的作品。
大正時代にも貧富の差は歴然とあり(今より酷いかも知れない)、さらに学校では弱い者に対するいじめがあった。ま、100年くらいじゃ、人間というものはそう変わらんということか。
昔は生徒はみな従順で先生の言うことを全て受け入れていたと思いがちだけど、11か12歳くらいの子どもがそんなにおとなしくていい子ばかりな訳はないのだ、今も昔も。
この小説は、このクラスの担任の先生の視点から描かれているのが効果的で上手い。この沼倉という転校生が短期間でクラスを掌握し、人望を集め、全員を支配していくのを大人の目から見ている。
やがて沼倉はクラスの大統領になり、配下の者を様々な役職の大臣にして、さらに彼の「国家」だけでしか使えない「紙幣」を発行し、みんなそれを使って内々で消費活動をするようになる。何とユニークな展開だ。
ラストは、大人である先生が、生活の困窮のためもあって沼倉の軍門に下る感じで終わる。ここも鮮やかである。
何度読んでも面白い。
★★★★★

残りの作品はまたあとで。


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