『女嫌いのための小品集』 天下公認の娼婦、またの名は主婦

短編集『女嫌いのための小品集』1975年 パトリシア・ハイスミス著 宮脇孝雄訳 河出文庫 1993年1月7日初版発行
2014年12月12日(金)読了

(注意)ネタバレあり

17編収録のショート・ショート集。
「嫌な女」の話ばかりを集めた極めて毒のある本である。これでもかと、嫌な女に付き合わされる羽目になる。うんざりするほど面白い。毒があるからだな。一つ一つが短い作品なので粘着的なしつこさがなく、アッサリしているので救われる。さすがに17もあるとパターンが読めてきてしまう感もあり。
もっとミステリ的な要素が多いかと思ったが、それはあまりない。意外なオチというのも少ない。現代の寓話みたいな感じがする。

いくつか気に入った作品を取り上げてみる。

「片手」
「お嬢さんをぼくにください」と娘の父親に言った若者が父親から受け取ったのは、娘の左手だった。
この短編集の冒頭に置かれた作品。カフカの短編のような不条理な話。何故父親が娘の手を切断したのかさっぱり分からない。結婚とは理不尽なものであると言いたいのか。いや、それだけではないだろう。若者は追い詰められ発狂して、死んでしまうのだから。人生のそこかしこに潜む落とし穴に嵌ったかのような不幸。人生の恐ろしさ。女の不可解さ。

「芸術家」
総合芸術学院という五階建ての校舎の学校。そこには、ピアノやヴァイオリンの演奏、作曲、小説作法、詩の書き方、彫刻、ダンス、絵画の描き方などを教える教室があった。その学校に嵌りこんで次々にクラスを変えていろんなことを学ぶが何一つとしてものにならない女、そしてその学校を憎悪する夫の話。日本にもこの手の教室を擁した学校はたくさんあるのでこの辛辣な話も現実味を持って読める。ラストは大爆発。

「天下公認の娼婦、またの名は主婦」
この邦題だけで中身が想像できるし、その通りの作品。妻の身でありながら次から次へと男をとっかえひっかえして遊んでいる女が、邪魔な夫を殺そうと考え、実行に移すという話。思惑通り、夫殺しに成功する。勧善懲悪とはほど遠い内容だが、面白い。

「出産狂」
次から次へと休む間もなく妊娠⇒出産を繰り返し、遂には17人の子持ちになった妻と夫の話。ここでもラストで夫は発狂する。何だかハイスミスのパターンがよく出ている。事態がどんどんエスカレーションしていき、それに耐えかねた夫は発狂というパターン。女はびくともしていない。
淫乱な浮気女は✕、子どもを産みすぎる女も✕とハイスミスは片っ端からダメ出ししている。

「動く寝室用品」
次から次へと男の所有物になって行く女。男が飽きると、女は他の男に売られる。その繰り返しで女は世界中を転々としている。だが、それもあっけなく終わる日が来る。
動く寝室用品、というタイトルが秀逸。まさにその通りの女。男は彼女を愛するのではなく、寝室用品として利用しているだけ。用がなくなれば売り払うだけ。よくまあ、これほど酷い話思いつくものだ。でも、こういう女もいそうだから人間は怖い。

「純潔主義者」
セックスばかりやっている女は激しく攻撃されるが、その反対のタイプの女にもハイスミスは厳しい。
処女と童貞で結婚した夫婦は、自分の娘たちも結婚までは処女でいることを強制していたが、その思惑は外れ、娘たちは処女を捨ててしまう。それが絶対許せない親たちの悲劇。
ここまで極端な純潔主義者いるかなあ、と思うほどだが、極端だから面白い。誇張的表現を恐れずやってしまうところがハイスミスの凄さ。

「福音伝道家」
ある日突然、神が訪れた女が宗教活動を始める話。これもどんどん話がエスカレーションして、宣教のワールドツアーまでやることになるが、思わぬことが起きて・・・。
宗教に狂う女を槍玉にあげるって日本よりもヨーロッパの方が色々物議を醸しそうだが、ハイスミスはそんなのお構いなし。辛辣でダークだが妙に痛快。

全17編、よくぞまあ、ここまで嫌な女を並べて話を作ってきたものだとひたすら感心。結局、いちばん嫌な女は、こんな短編集を書いたパトリシア・ハイスミスで決まり。
女嫌いのための小品集 (河出文庫)
河出書房新社
パトリシア ハイスミス

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 女嫌いのための小品集 (河出文庫) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック