『影が行く』 原子力エネルギーを動力にした反重力装置

小説(アンソロジー)『ホラーSF傑作選 影が行く』P・K・ディック D・R・クーンツ他 中村融編訳 創元SF文庫 2000年8月25日初版
2014年11月1日(土)読了

ホラーSFのアンソロジー。短編13編収録。面白かったもの、面白くないけど注目すべきものについて感想を書いておく。

「消えた少女」(1953年)リチャード・マシスン
言わずと知れたマシスンの有名作。だけど昔読んだ時よりは面白くない。
つい先日、この作品を映像化した『ミステリーゾーン』を見て面白かった記憶がまだ新しいのでこちらが見劣りするのかも。これは映像の方が向いているネタなのだろう。小説としては少しユーモアを交えているのが疑問、というか、ラストに引き合いに出される実在の司会者アーサー・ゴドフリーの名前がぼくにはピンと来ないのも要因か。
何の前触れもなしに突然、家の中に四次元への通路が開いてしまい、そこに少女が迷い込む、という発想自体は大変素晴らしいのは間違いない。

「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」(1970年)ディーン・R・クーンツ
色々な土地をバイクで流し、各地で暴虐非道の振る舞いをするギャング団の正体は・・・。
ワンアイデア・ストーリー。シンプルなところがいい。割と気に入った。

「群体」(1959年)シオドア・L・トーマス
「不定形の怪物」を描いた作品。かなり短いのだが、スケールの大きさが実にたいしたもの。何しろこの怪物によってひとつの都市が崩壊してしまうのだから。その怪物が、全くの偶然の積み重ねで生み出されたことも面白い。
最初、そいつがキッチンの排水溝から這い出して人間を襲うところはややコミカルだが、それがどんどん恐ろしくなるのが怖い。のちに長編化されたというが、そっちも翻訳してほしい。

「影が行く」(1938年)ジョン・W・キャンベル・ジュニア
映画『遊星よりの物体X』および『遊星からの物体X』の原作小説。不朽の名作と呼ぶべきだろう。ぼくが一番最初にこれを読んだのは43年前、子ども向けにリライトされた版で物凄く面白くて怖かった記憶が今も鮮烈だ。
本来の大人向けのものを今回久々に読んだが、やっぱり面白さは色あせない。二本の映画版もそれぞれ傑作ではあるけれど、このオリジナルの小説には勝てない。
南極基地に話を絞り、越冬隊が遭遇した恐るべき怪物との戦いに終始するこの中編小説、逃げ場なしという状況設定は実にうまい。同じキャンベル・ジュニアの『月は地獄だ!』にも共通する極限状態の恐怖がよく出ている。
そして、怪物の恐ろしさ。いや、単にそれだけではない。その怪物が犬にも牛にも人間にも化けてそっくりになってしまうという恐怖の方が大きい。他人が信じられなくなる。それどころか自分自身も信じられなくなる。
この小説が、後世に与えた影響は大である。『寄生獣』なんかは、おそらく映画経緯だろうが、影響を受けている。
隊員のひとりであるブレアーが作り出した「原子力エネルギーを動力にした反重力装置」というのも凄い。この小説が書かれたのは1938年、日本風にいえば、昭和13年。その時代に原子力とか反重力とか出てくるとは。
怪物に負けず劣らず、人間も獰猛で狂暴である、という皮肉なくだりもいい。『遊星からの物体X』で極めて印象的だった血液テストが原作のそのままだったのにも関心。つくづく傑作である。

「探検隊帰る」(1959年)フィリップ・K・ディック
これも傑作。ディック十八番のテーマではあるけれど、何度読んでも面白い。面白さが無限にループする感じ。リチャード・マシスンの「死の宇宙船」(1953年)にも少し似た感じがあるが、こちらの方がマシスンよりも一層厭な後味が残る。全員を焼き払って殺しちゃうっていうのがなんとも。

「唾の樹」(1965年)ブライアン・W・オールディス
19世紀末のイギリスを舞台にしたSF。宇宙生物が飛来するのは、都会ではなく、田舎の一つの農場。そこにこの小説の面白さがある。宇宙生物は透明で人間の見には見えないという設定で小麦粉をぶつけるとその体の輪郭がかろうじて分かるというのが愉快。宇宙生物が何故そこにやってきたかがだんだん判明していくくだりもユニーク。ちょっぴりシニカルな味もする。気に入った。
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